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【小説】「straight」098

「何しとんねん、また抜かれとるやないか!」
 先程の上機嫌はどこへやら、再びカミナリが落ちた増沢は、大伊里に掴みかかった。

「言うたやろ、絶対負けられへんねんで」
 しばらく彼のなすがままにされていた大伊里は、やがて増沢の手を振り払うと、低い声で言った。
「ド素人が……勝負事に口を出すんじゃない」
「何だと」
 その仕打ちに、増沢の口調がガラリと変わった。
 あれ程出ていた関西弁が全く消え、言葉に幾分凄味が増す。
「貴様、私に対して、そんな口をきいていいと思っているのか」
「立場云々じゃない、ここは俺のフィールドなんだ。関係ない奴は出て行ってもらおう」

「……覚えていろよ」
 大伊里をキッと睨み付けた増沢は、乱れたスーツの襟を直して、その場から立ち去った。
 後に残った大伊里は、スクリーンに映った光璃を見て思った。
(畜生、いい走りしてやがる)


「何なのあの娘、背中に羽根が生えてるんじゃない?!」
 聖ハイロウズのアンカー、引地祐子(ひきちゆうこ)は、走りながら叫んだ。
 彼女の前方、佐山光璃との差は約50メートル。
 この差は、先程から引地がいくらペースを上げても縮まらない。
 いや、じりじりっと確実に離されている。
「負けるもんか、私は日本ジュニア3000メートル準優勝選手よ。あんな無名選手に、絶対負けるもんか!!」

 そして引地も遂に『ハイロウズ・タイム』を捨て、光璃に向かって猛スパートを掛けた。

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