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【小説】「straight」109

 記者団が風の様に消えたあと、しばらくその場に佇んでいた稔流が、悠生の方をゆっくりと見て言った。

「という訳だ、君にも迷惑をかけたな」
「……」
 悠生は、むっつりと黙り込んでいる。
 そんな彼に構わず、稔流は幾分弾んだ声で話を続ける。
「先代同様、俺は君の商品に大変興味を持っていてね。どうだい、もう一度研究所に戻って、会社復興の為に力を貸して貰えないか?」

 この言葉に、悠生は一歩前に進んだ。
 それを肯定と受け止めた稔流は、笑って右手を差し伸べる。
「一つ、質問してもいいですか?」
 右手を出しながら、悠生が尋ねた。
「なんだ?」
「今日の騒動は、先ほどの発表のためだけに起こしたのですか?」
「いかにも」
 稔流は、胸をはって答えた。
「こういうものは、最初のインパクトが肝心なのだよ。君や彼女達には災難だったが、これも会社のためだ、仕方が無いと思ってくれ」

「……そうですか」
 次の瞬間、出した右手を引っ込めた悠生は、そのまま拳を握りしめ、稔流の左頬をガツンと打ち抜いた。

 強烈な右フックを浴びた彼は、宙を吹っ飛び、用具置き場に突っ込む。
 砂ぼこりの中、呻き声を上げている稔流に背中を向けた悠生は、ゆっくりと出口に歩き出した。

 用具置き場に向かってアカンベエをした光璃達が、彼の後に続いていく。


 しばらくひっくり返っていた稔流は、やがて腫れ上がった左頬を押さえて、よろよろと立ち上がった。
 手を貸すために近付いて来た豊田に向かって尋ねる。
「参ったね、嫌われちゃったかな?」
「今度、聞いておきますよ」
 彼は苦笑して、そう言った。

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