【小説】「straight」061
赤くなった頬を隠して、急いでエンジンをかける。
(いつの間にか、すっかり感情移入してしまったな、あいつらに)
彼の車を見送った後、きゃあきゃあ言いながら袋を開けている彼女達をバックミラーで見ながら、悠生は苦笑した。
(いい娘達じゃないか、素直で可愛くて)
それに、ハードな練習にも必死で食らいついてくる根性もある。
「何とか、勝たせてやりたいなあ……」
相手が、気に食わないモカコーラの学校だからではない。
彼女達の頑張りに、可能性に掛けてみたい。
純粋に、そんな気持ちになっていたのだ。
(俺に、出来る事は無いのか?
……本当に、もう無いのか?)
自問自答を繰り返していた彼の脳裏に、ひとつの言葉が浮かんだ。
「……あった」
一つだけ、あった。
交差点でUターンした彼の車は、自宅とは反対の方向に走り出した。
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