【小説】「straight」090
子供の頃から、一通りの事は出来た。
小五から伸びた背丈のせいもあり、周りの友達からは常に頼られる存在だった。
私はいつも、涼しい顔を作る。
そして自分自身に、出来て当たり前、なって当たり前、と言い聞かせていたのだ。
本当は、ずっと苦しかったのに……。
佐山光璃。
小学校低学年から、自分の一番近くに居た、掛けがえのない友達。
彼女は、私の性格をよく見抜いていた。
「ユカりんはすごいよ」
学校の帰り道、ランドセルを背負った彼女が背中を向けたまま、決まってこう言った。
「みんなが言った事、いつもちゃんとやってくれるもん」
「別に、それが当然じゃない」
素っ気なくいう可愛げの無い私の耳に、涼やかな彼女の声が届く。
「でも、あんまり無理しないでね。あたし、苦しそうなユカりん、見たくないもん」
こう言った時、光璃は後ろを決して振り返ろうとはしない。
それからしばらくして、田んぼの畦道を歩く二人の間に、私のすすり泣く声だけが響いていた。
いい子になろうとして、どこか無理をしていた。
そんな私が、唯一本音を出せる時間が、そこにあった。
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