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【小説】「straight」058

 桔梗女子達の練習を終えた悠生は、自宅に戻ると、再び外に出掛けた。

 彼は最近、10キロのランニングを自らに課せているのだ。

「うん、いい調子だ」
 軽快にアスファルトを踏みしめる右足首を眺めて、悠生は頷いた。

 あの悪夢の様な事故から数年間、完治したはずなのにランニングを意識する度、そこから激痛が走った。

 主治医は、精神的なものだと言う。
 事実、普段の生活では全く違和感は無いのだ。

 そうしていく度に、自然と走りから遠ざかっていく。
 悠生は、そんな自分がたまらなく嫌だった。


(自分が出来ないのに、何が指導者だ)

 桔梗女子駅伝部のコーチを引き受けた時、彼は久しぶりに自分を変えようとした。

 走りを忘れた、屍の様な存在。
 その殻を脱ぎ捨てたい。

 がむしゃらにトレーニングを行い、ひたすら夜の街を走り込む。

 その一つ一つが、澤内悠生の身体に何かを注ぎ込んでいった。


 ちょうど折り返し地点と定めたコンビニで、悠生は足を止めた。
 自動ドアから出て来た女性の横顔に、少し見覚えがあったからだ。
「?」
 その視線に気がついたのか、彼女はパーカーの襟を正してこちらを見た。
「受付の……西野さん?」

「あれ、澤内さん」
 彼女は、いつも悠生が見ている笑顔に戻って言った。

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