見出し画像

【小説】「twenty all」221

「あー怖い・・・」
 看的帳で顔を覆っていた静香は、先程から制服の胸ポケットに入れていたスマートフォンが、ブルブルと震えている事に気が付いた。

 慌てて矢道から下がり、応答ボタンを押す。
「・・・もしもし」


「月島ァ!!」
「はいっ!」
 空良の呼び掛けに、佳乃は素早く反応した。
 彼から弦を失った弓を受け取り、手早く新しい弦を張り直す。

「やっぱり、必要だったろ?」
 空良の言葉に、彼女は「はい」と頷いて弓を渡した。
「新弦なので、最初は少し伸びます。気持ち短めに結んでおきましたので、宜しくお願いします」
「分かった、有難う」

「先輩」
 矢を取った空良に、佳乃は言葉を掛けた。
「あともう少しです、頑張って下さい」
「ああ」
 彼は手を挙げて、射場に向かって行った。


 19射目、
 会に入った空良は、今迄と同じ様に狙いを付けて射離した。
 タアアァン
 前弦と変わり無く放たれた矢は、的の1黒に突き刺さる。

「よおォし!!」
 的中を知った佳乃は、的中時の声出しに一際力を入れて叫んだ。

(私の弦を、信じてくれた)
 空良の勇姿が、涙で霞んで見える。

(ありがとう、空良先輩)


 しかし、御角も前回の射を修正して、危なげ無く的中。

 二人の戦いは、
 とうとう20射目に突入する事となった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?