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【小説】「twenty all」227

「・・・ごめんなさい」
 駅前通りの喫茶店で、安崎亜紀子は深々と頭を下げた。


「私、全部知ってたの。里香先輩の事も、あなたと先輩の間で、何があったかも」
 彼女は、本当に申し訳ない気持ちで謝った。

「うちの学校に転校して、里香先輩は真っ直ぐに私の所に来たわ。入部させて欲しい、って」
 亜紀子の脳裏に、あの時の真剣な表情をした里香が浮かんだ。

「三年生はみんな引退してるって言っても、私は弓をやりたい、いつか決着を付けたい相手がいるから、って言ってた。でも、その一週間後に突然倒れて・・・」

 堪え切れず、亜紀子はハンカチを目頭に当てた。
 事情を察したのか、ウエイトレスはコーヒーカップを置くと、即座に立ち去って行った。


「ずっと言ってたの、都合ヶ丘弓道部の事、そして国府田空良君、あなたの事を」
 空良は、ズボンの膝元をぐっと握り締めた。


「あなたが来た時、私、よっぽど病院に連れて行こうかと思った」

 涙声で亜紀子は言った。
「でも、出来なかった。それを聞いた里香先輩は、止めてくれて有難う、って言ってた」

 彼女は、言葉を続ける。
「空良君の伝言を聞いて、ベッドの上で微笑ってたわ、先輩。『ああ、空良君に恨まれていなくて良かった。それが、一番の心残りだったの』って・・・」

 亜紀子は、嗚咽を堪えながらカバンを開けて、一通の封筒を取り出した。
「ゴメン、私これ以上話せない。あとはこれを読んで」

「・・・これは?」
 自分の名前が書かれた封筒の文字に見覚えがありながらも、空良はあえて尋ねた。

「里香先輩から預かってたの、空良君に渡して頂戴って」

 封を切ると、微かに春の残り香がする便箋が2枚、丁寧に折り畳まれ入っていた。

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