【小説】「straight」086
中町小学校前の、折り返し地点。
順調な走りを披露している聖ハイロウズ学園第三区、中野ひとみは、折り返しのポールをくるっと回った。
そのまま、来た方角へ走っていく。
途中、二番手の選手とすれ違ったが、彼女の眼中には全く映っていなかった。
駅伝にとって、緻密なペース配分がいかに大事かを命題としているハイロウズ学園。
彼女は、一・二区で乱れた『ハイロウズ・タイム』の修正を加えながら走っていたのだ。
そんな中野の頭脳コンピューターが、前方からの人影を見つけた瞬間、はたと止まってしまった。
「まさか、そんな……」
冷静を装い、目をそらした彼女の脇を、顔面から流血した真深がじっと睨み付けながら走り抜けて行った。
中野の背筋に、冷たいものが流れる。
(あの瞳、本気だ。
追いつかれたら、絶対十倍にして返される。
逃げなきゃ)
「う……うわあーっ!」
中野は恐怖心に耐えかねて、『ハイロウズ・タイム』を諦め、独断でペースを上げた。
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