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【小説】「straight」107

 稔流の発言に、ポカンとなった記者達。
 真っ先に我に返った記者のひとりが、口を開く。

「あなた、何か勘違いされてません? 我々が今日ここに来たのは『straightドーピング事件』に関与した疑いのある澤内悠生氏が高校女子駅伝に選手を送り込んだ、という情報を入手したからで、あなたの就任記者会見を撮りに来た訳じゃありません」

「その情報を流したのは、わたしだ」
「え?」
「何っ!」
 彼の話を聞いた悠生は、思わず耳を疑う。


「何故、そんな事されたんですか?」
「身内の恥じゃないですか」
 厳しい指摘のなか、稔流は再び口を開いた。
「身内の恥、と言いましたな?」
「え、ええ」
「本当に恥ずかしい事です」
 彼はわざとらしく頭を下げた。
「うちの前社長、福山が、まさかインサイダー取引に関与していたなんて」

「え?」
 話を聞いていた記者の動きが、はたと止まったが、彼はお構いなしに続ける。
「我々も、警察当局と協力して調査を進めていました。その結果、意外な所で繋がりましたよ」
「それは、どこに?」
 記者達は、すっかり稔流のペースにハマっていることに気が付いていない。


「商売敵です」
 彼は、さも残念そうに言った。
「一年前に起きたstraightのドーピング事件、これはモカコーラ社が、最終的にBWの乗っ取りを目的として、人為的に起こしたものだったのです」

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