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【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第2話

「は、はい」
 柄にもなく上擦った自分の声が恥ずかしくなり、悠生は慌てて店内を見回した。

「どうぞ、こちらに」
「ありがとう」
 昼食時で混み合ったテーブルの間を、彼女は風の様にすり抜けて行った。

 白いワンピースが、その動きに合わせて揺れている。
 素足に似合う、真っ白いミュール。
 肩まで伸びた黒い髪に、優しく包み込む様な大きな瞳。

 それはまさに、悠生の理想とする女性を映したものだった。

 彼女は、テーブルに置かれたメニューには全く目を向けずに、店の外に広がる青い水平線を眺めている。


「ご注文は?」
 出来るだけ雰囲気を壊さない様に、悠生はそっと尋ねた。
 一瞬、彼の方に目を向けたあと、彼女はメニューを広げる。

「……風の色」
「え?」
 よく聞き取れなかった悠生。
「風の色を、作ってください」
白いワンピースを着た彼女は、メニューを閉じたあとそう言って微笑んだ。



「風の色ですか、ええっと」
 あまりに真剣なそのまなざしを受けて、悠生はどう答えていいものか迷っていた。
 それを見て、彼女はクスッと笑う。
「冗談です」
 悪戯っ子の様な口調で訂正する。
「そうですね……ブルーハワイをください」
「ブルーハワイ、お一つですね」
 カウンターに戻った悠生は、キッチンにオーダーを通しながら、再び視線を海に戻した彼女の横顔を追っていた。

(風の色、か)
 聞き慣れない言葉に戸惑う彼だったが、一つ気になる事もあった。

(冗談と言いながら、何故あんなに寂しそうな顔をしているのだろうか?)


オトドケシマス・イヤシノヒトトキ!
黒珈の週末ストーリィランド🐈‍⬛☕️✨

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