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【小説】「twenty all」230

「何これ、気持ちいいー!」

 道場に足を踏み入れた観月は、早速はしゃぎ出した。

「ちゃんと神棚もあるんですね。うーん、いい感じ」
 静香も、珍しく満足そうに浮かれている。


「コラコラ、うろちょろするのは片付けをしてからだぞ!」
 空良が、二人を嗜める。
「まったく・・・」
 ブツブツ言っている彼を見て、隣にいた佳乃は、思わずプッと吹き出した。
「・・・何が可笑しい?」
「いえ、別に」
 佳乃は、慌てて話題を変える。

「そう言えば空良先輩、ウチのクラスの男子が2人、弓道場のウワサを聞いて『入部したい』って言ってるんですが」
 それを聞きつけた観月と佳乃も、手を挙げる。
「私も、3人聞いたわ」「私、4人です」
「すぐに来て貰え。但し、言っておけよ」
 空良は、ニヤリと笑って言った。
「『最初の1か月は、全員土手射ちだ』ってな」
「はい」
 三人娘も、つられて笑った。



「月島、下を持ってくれるか?」
「あっ、はい」

 看板を持った空良に付いて行く佳乃。
 脚立に昇り、壁に釘を打ち付けている彼を真下から眺めながら、彼女は言った。
「・・・色んな事、ありましたね」
「ああ・・・」

(本当に、色んな事があった)
 空良は、改めてこの1年半を振り返った。

 ジグソーパズルのように細かく散らばったその一つ一つが、今はかけがえのない思い出となっている。


 暫く何かを考えていた佳乃は、意を決して口を開いた。

「先輩」
「ん?」


「私、頑張ります」
 佳乃は、爽やかな笑顔を向けて言った。
「弓道部と、そして・・・空良先輩の為に」


 少し顔を赤らめた彼女の言葉を聞いて、空良はハッとなった。

(去年、自分が里香先輩に対して言った言葉と同じだ)

 それは、幾分緊張しながらも、インターハイ出場を逃して傷心だった里香に対して、自然に出た言葉だった。


(・・・あの時の約束を、俺は守る事が出来た)

 佳乃の方を見た空良は、ニッコリと微笑んで言った。

「うん、そうだな」

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