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【備忘録SS】それは「強固な」コミュニティ。

「検見川さんは、先ほど経理部の女帝に注意された案件を分解して、このホワイトボードに箇条書きしていってください」

テーブルの上でノート型のホワイトボードを1枚広げた紗季は、テキパキと指示を出していく。
「その隣に、私が第三者目線でポイントを書いて行きます。そのあと両者を突き合わせて話し合いましょう」
「はい、でも、これで何を……」

「【真の原因】を浮き上がらせるのです」

強炭酸水のペットボトル(未開封)をクリクリ回しながら、紗季はビシィっと指差して言った。
「こういう時は、時間を置かずに潰してしまうのが一番です。さあ個人ワークの時間ですよ!」
「はっ、はい」
紗季の勢いに押されて、検見川はおっかなびっくりホワイトボードに文字を書いていく。

作業を進めて行くうちに、彼女は気が付いた。
(これ……とても纏めやすい)
簡単に書いては消しが出来るので、ストレス無く文字に表現できることは勿論、課題を可視化することで流れやポイントを掴みやすくなっているのだ。

(それに……)
彼女はちらりと、隣に立っている紗季を見た。
「支店で何かトラブルが起こると、よく皆んなで集まってワイガヤやってたなぁ」
そう言って、鼻歌を唄いながらスイスイとペンを進める彼女の姿に、検見川は何とも言えない安心感を覚えていた。

(もう少し、自信を持って頑張って行こう)

胸の中に温かいものを感じた次の瞬間、彼女の耳にもの凄い破裂音と「ぎゃあああああっ!」という普段聞くことのない叫び声が聞こえてきた。


「か、課長っ!どうしましたか?」
慌てて其方を見ると、上半身ずぶ濡れとなった紗季が、身体の表面からパチパチ泡を飛ばして佇んでいた。
彼女の足元には、中身が全て無くなったペットボトルが転がっている。
「ううっ、無意識のうちに炭酸水を振りすぎていたみたいですぅ……」

(そう言えば、寝屋川部長が彼女のことを【天然ドジっ娘】と言ってましたね……)

情け無い声を上げる紗季にタオルハンカチを手渡しながら、検見川は彼女の魅力をまた1つ、実感したのだった。


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