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コーポレートガバナンス・コード改訂案への私見

以下のページで、JSIFのパブリック・コメントへの回答を掲載しています。

最後の取締役会議長の役割以外は私が主体で作成しましたので、こちらにも内容を転載します。

サステナビリティ:対応は経営の根幹であるため、一貫性のある活動が必要

[サステナビリティ関連項目の]取扱いについては原則によりスタンスが異なるため、その一貫性確保を進める必要があると考えております。

企業がまず起こすべき行動は補充原則2-3①の通り課題の把握です。次に把握した課題への対処を行う必要があるものの、それには補充原則2-4①の通り方針を策定し、具体策を実行に移す必要があります。その際には補充原則4-2②の通り、方針、具体策実行、その状況に関する監督を取締役会が行うとともに、それに足る人材を獲得・維持するため補充原則4-10①の通り取締役会を支える体制も整えることが重要です。最後に方針に沿って行った具体策の実効性を情報開示しなければなりません。これは補充原則3-1③に示している通りであるものの、プライム市場上場会社向けに、気候変動について詳述しています。

各補充原則で強調している通り、サステナビリティ課題は経営の根幹であることは言うまでもありません。そのため、企業内の各部門がバラバラに取り組むのではなく、取締役会の監督のもと、経営陣が課題把握、方針策定、具体策実行、情報開示を主導的に行わなければなりません。そのためにはサステナビリティ課題毎に対処方法を変えるのではなく、課題把握、方針策定、具体策実行、情報開示のプロセスを一貫して行うことが肝要です。

情報開示:TCFD提言のフレームワークを基に、他のサステナビリティ課題についても開示が必須

上記の一貫性ある活動を支えるのは情報開示のフレームワークです。報告事項を規定することで、活動の要件を企業に周知することが可能となります。またフレームワークの実効性を担保するには同フレームワークが投資家にとって馴染みがあることも重要です。既に補充原則3-1③でTCFD提言について言及していますが、このフレームワークは開示情報の具体性、投資家による認知の両面において実効的と言えます。TCFD提言は以下の4分野について、情報開示を求めています。

ガバナンス:取締役会による監視体制、リスク・機会の評価・管理における経営の役割
戦略:短期・中期・長期のリスクと機会、事業・戦略・財務計画への影響、シナリオ分析
リスク管理:リスク評価プロセス、リスク管理プロセス、統合リスク管理
指標と目標:指標、関連リスク、目標・実績

小項目については気候変動特有のものが含まれているものの、4つの大分野についてはサステナビリティ課題に関わらず適用可能と考えます。企業が重要と考えるサステナビリティ課題について、TCFD提言と同様のフレームワークで情報開示を求めることは企業の効率的な対応にも有用と言えます。

昨年のダボス会議では国際ビジネス評議会(IBC: International Business Council)の推奨開示項目を公表したことをきっかけに、既存のサステナビリティ情報開示基準が乱立から収束へと方向転換したと言えます。実際、IBCの推奨開示項目の最終版作成に既存の開示基準設定団体5団体が協力を申し出たり、2020年11月に国際統合報告評議会(IIRC: International Integrated Reporting Council)とサステナビリティ会計基準審議会(SASB: Sustainability Accounting Standard Board)が2021年中に統合し、Value Reporting Foundationを設立する予定となったりしています。この背景にあるのは企業の開示疲れであり、新たに開示基準を作成するよりも既存の優れた開示フレームワークを一部だけでなく、サステナビリティ課題全体に適用することが重要と考えています。

結論:開示情報拡充をきっかけとした日本企業によるサステナビリティ活動の充実こそコーポレートガバナンス・コードの役割

上記のように一貫性ある情報開示を推進することにより、企業による対応の効率化、投資家への有用な情報開示、及び国際的なサステナビリティ情報開示基準の収束への貢献が可能となります。その起点をコーポレートガバナンス・コードとすることにより、グローバルにおける日本の存在感をアピールできるものと考えます。

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