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【映画メモ】月【#37】

連休だったので久しぶりに映画館へ

どうしても見たい作品だったので、重い内容なのは分かっていましたが見に行きました。劇場は混んでて、ほぼ満席でした。障害者の人も多く見にきていました。彼らにはどのように映ったのでしょうか。

あらすじは映画.comさんより

「舟を編む」の石井裕也監督が宮沢りえを主演に迎え、実際に起きた障がい者殺傷事件をモチーフにした辺見庸の同名小説を映画化。
夫と2人で慎ましく暮らす元有名作家の堂島洋子は、森の奥深くにある重度障がい者施設で働きはじめる。そこで彼女は、作家志望の陽子や絵の好きな青年さとくんといった同僚たち、そして光の届かない部屋でベッドに横たわったまま動かない、きーちゃんと呼ばれる入所者と出会う。洋子は自分と生年月日が一緒のきーちゃんのことをどこか他人だと思えず親身に接するようになるが、その一方で他の職員による入所者へのひどい扱いや暴力を目の当たりにする。そんな理不尽な状況に憤るさとくんは、正義感や使命感を徐々に増幅させていき……。
洋子の夫・昌平をオダギリジョー、同僚のさとくんを磯村勇斗、陽子を二階堂ふみが演じる。

https://eiga.com/movie/99730/

実際に起きた障害者施設での大量殺人事件がモチーフになっています。見ている僕たちに、建前と本音という対立をぐいぐいと突きつけてきます。今まで目を逸らしてきたことを目の前に差し出されて、あなたはどう考える?今まで建前で生きてこなかったか?本音はどうなんだ?それはただの綺麗事じゃないのか?とひたすら問われるような居心地の悪さを感じます。

磯村優斗が演じる「さとくん」と宮沢りえが演じる「堂島洋子」が施設の一室で、月の光を浴びながら対話するシーンがあります。このシーンは絶対に映画館で見ることをお勧めします。

さとくんの狂ったような理屈に洋子が応えていきますが、途中からさとくんの理屈が、人々が隠してきた本音になっていきます。本音はこうですよね?所詮あなた達が言っているのは建前ですよね?綺麗事ですよね?

あなたのお腹にいる子供に障害があったらどうですか?元気に生まれてきてほしいと思わないんですか?もし障害を持っていたらどうしようと不安ですよね?じゃあ障害者を擁護しているあなたの理屈は何ですか?他人事だから言えるんじゃないんですか?自分の子供だったらどうですか?

さとくんと洋子の対話が、やがて洋子自身との対話に変わっていきます。その答えのない対話に彼女はどんな答えを出したのか?そして、見ている自分がどのような答えを出すのか?

映画の中で、さとくんが井上陽水の「東へ西へ」を口ずさむシーンが何度も出てきます。

がんばれ〜
みんな、がんばれ〜
月は流れて東へ西へ

耳に残ります。家でふとしたときに口ずさんでしまっています。そして、さとくんについて考えてしまいます。彼は間違っていたのか。彼の何が間違っていたのか。本音はさとくんと同じなのではないか。

一つだけ僕の中で出た答えは、さとくんの答えは間違っている。でも、それはコスパやタイパで作った理屈が間違っているのではなく、そもそも命(生命)とは矛盾したもので、コスパやタイパでは測れないものだと。だって、コスパを考えたら、生きていること自体がコスパ悪いということに気付けると思います。ご飯は食べないといけないし、お金を稼がないと生活できないし、嫌なこともやらないといけないし、トイレにも行かないといけないし。タイパで考えても、寝ている時間って何もしてないから無駄ですけど、寝ない人はいません。コスパやタイパを理由に死ぬ人もいません。

そんな矛盾に満ちている命(生命)に対して、コスパやタイパで作られた理屈は通用しません。自分には適用しないで、相手にだけ適用するのも間違いです。そんな理屈を超えて、命は守らないといけない。殺してはいけない。相手のことを思う、思いやるというのは、精緻な理論や矛盾のない論理なんて必要ありません。ある意味で愛とは暴力です。乱暴な理屈です。理屈なんてどうでもいいんじゃ!弱いものは守らんといかんのじゃ!それだけでいいんじゃないかと思ったのが僕の答えです。

むしろ、理路整然と話ができても、心の中の警報音を感じられないことの方が異常だと思います。

さとくんはしきりに、コミュニケーションできるかどうかを、殺さない基準、生き残らせる基準にしていると話しますが、言葉は通じているのに最もコミュニケーションとれていないのがさとくんです。目が見えているか分からない。耳が聞こえているか分からない。話しかけても反応がない。そういう表面的なことではなく、話もできる、対話もできる、でも最もコミュニケーションが取れない人間として描かれています。最近は、この手の人間が増えているように思います。言葉は通じるのに話が通じない。そして、コスパやタイパを根拠に独善的に、独りよがりに考える人が多くなって、そいう人が犯した犯罪のニュースをよく聞くようになったと思います。そう考えると、このモチーフとなった「津久井やまゆり園」のような事件は今後も起きる可能性はあるのかもしれません。そして、障害者施設だけでなく、老人ホームにおいても、コスパやタイパから考えると同じようなことが起きるように思えてなりません。

一つ確実に言えるのは、地上波では絶対に放送できない内容なので、映画館へ行くのがいいと思います。

おわり


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