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スカイとマルコ(3)・出会い

あれから1週間で、色々なことが分かった。

ここは人間の勝手な事情で捨てられた犬たちが保護されている場所で、でも、人間が運営していて、そして、人間に捨てられた犬を他の人間に引き渡す仕組みになっているみたい。

下界という場所では、犬は人間に振り回されて生きるしかないってこと?

あたしは、なんだか納得がいかない。

でも、ここにいる犬達は、みんな、人間を待ち侘びているみたい。誰かが、犬舎と呼ばれるこの場所に入ってくる度に興奮して、「僕、ここにいるよ!」「あたし、あたし、あたしを見て!」と、吠えたり、柵の間から、鼻先を出したりする。
隣のおじいさんわんこでさえ、ソワソワしているのが分かる。

そして、おじいさんわんこが言った通り、人間達は、若くて、見栄えの良いわんこ達の前で、足を止め、ケイタ君たちスタッフにあれこれ聞いて、その子と触れ合い時間を持って、問題がなければ、その日のうちに引き取られていった。

「お嬢ちゃんたちは、変わっているね。まるで、選ばれたくないようじゃないか。」

ここの生活がひと月ほど経った頃、隣の柵のおじいさんわんこが言った。
あたしとマルコは、おじいさんわんこの予想を裏切り、さっぱり、引き取り手が見つからないからだ。

理由は簡単だ。あたしが、来る人、来る人に牙を剥き、吠えまくるからだ。
奥にいるマルコは、そんなあたしをぼんやり眺めているだけで、文句も言わない。偶に、「あの奥のおとなしそうな子を見たいんですけど。」と、言う人が現れるけど、そんな時、あたしはサッとマルコの側に行って、抱きしめる。

「あの子達は、一緒に引き取ってもらえる人を探しているんです。ずっと一緒にいたから、引き離すのは可哀想で。」

ケイタ君はいつもそう説明する。すると、聞いた人間は眉を寄せ、困った顔で、「そうですか。でも、二匹を一緒には、ちょっと難しいかな。もう一匹の子は気が強そうだし。」と言う。そして、マルコを諦める。

マルコは、人間達にとっても人気がある。
「この子は、マルチーズとプードルのミックスかな。シーズーも入っている?」と、人間が言う感じのルックス。絹のような白くて、フワフワのちょっとカールのかかった柔らかい毛で、垂れた耳の先や所々に薄いクリーム色の毛がポイントとして付いている。性格ものんびりして、文句も言わないから、スタッフさんにもすごく可愛がられている。

一方、あたしは、「青い目の小熊みたい」だそうだ。シベリアンハスキーという犬が間違いなく入っているから大きくなるんじゃないかとも言われてて、スタッフさん曰く、「大きくなる前に引き取り手が見つかると良いんだけど、いかんせん、この性格だと。。。戻ってくる可能性も高いだろうし、困った子だなぁ。」と、囁かれている。
そして、こんなあたしにしつこく、いや、辛抱強く接してくれているのは、唯一、ケイタ君。あたしは、ケイタ君にだけは、頭を撫でさせてあげるようになった。

そんなある日、珍しく、のんびり屋のマルコが朝からソワソワし出した。

「どうしたの、マルコ。下痢?」
「違う。さっき、普通の出た。」
「じゃぁ、何?」
「うーん、なんだろう。でも、なんか、落ち着かないんだ。」

犬舎のドアが開き、いつも通り、何人かの人間がスタッフさんの案内で、柵の前にやってきた。

「あ、」
マルコが目を見開き、柵の前の方にトテトテと歩み出た。おばあさんとまではいかない年齢の女の人が丁寧に柵の犬達一匹一匹に挨拶をしていた。
女の人の両側には、わんこが二匹寄り添うようにいた。でも、他の人間達には、そのわんこが見えないらしい。そのわんこ達を無視して、わんこの身体を通り抜けている。つまり、そのわんこたちには実体がないようだ。柵の中の犬達からは見えているのか見えてないのか分からない。でも、きっと何かは感じている。

そのうちの一匹のわんこが、あたしたちに気がつき、女の人から離れ、リズムカルな足取りでやってきた。人間達が、「ゴールデンレッドリバー」という種類の犬だと思う。

「ヤァ、君たちのどっちが僕の大切な人を幸せにしてくれるのかな?」

いつもあたしの後ろにいてぼーっとしているはずのマルコが躊躇なく答えた。

「僕だよ。」と。

マルコはまるでこの出会いを知っていたかのように。




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