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教育への投資とリターン

今月頭から「教育への投資を考える」というテーマで日経新聞のやさしい経済学で連載されています。2021年6月3日から6月17日に10回シリーズになります。筆者は、神戸大学准教授 佐野晋平さんです。

私個人の話をすると、小学校と保育園に通う子供が2人います。なので、教育という事に関してはとても興味あります。私自身、両親に博士課程まで進学させて頂いたので、私の子供たちにも進学を含めてより良い選択肢を提供したいと考えていますし、また日本や世界においても教育が開かれたものであるのを期待しています。

さて、教育への投資を考えるというと少し固いですが、私たちが教育を受けてきて、もしくは社会人になってさらなる学びをしている人にとっても、その学び(教育)というものが、個人にとって、社会にとって、どういったインパクトがあるのかを考えるきっかけになる連載だと思って、読んでいて、連載が終わったので、個人的なメモも含めてまとめておきます。

各記事のリンクと冒頭部分の記事を引用し、私のメモを書きます。

第1回:エビデンスで判断する重要性

経済学では、教育は人的資本への投資と考えます。人的資本とは、知識やスキルなどのことです。生産性を高め、イノベーションを促すことで、経済成長に寄与します。
人的資本への投資は、生涯を通して行われますが、学校の持つ役割は無視できません。学校教育による投資は若い時に行われますが、その成果は生涯にわたっての所得の上昇を通して回収されます。このように、教育は教育を受けた人自身に恩恵を与えます

教育への公的投資の判断指針としてエビデンス(証拠)が必要となるというのは納得で、そのために教育への投資という視点でまとめらたものを読めるのは本当に助かります。

第2回:大学進学のリターンは約10%

教育は人的資本への投資と説明しました。ではどのように決定されるのでしょうか。4年制大学への進学を例に考えます。
大学進学は大卒の便益と大学進学の費用を勘案して決定されます。大卒の便益は、高卒で働いた場合と大卒で働いた場合の給与差で、大学進学の費用は直接費用と機会費用です。直接費用は4年間の学費や生活費などで、機会費用は高卒で4年間働いた時に得られたはずの給与です。大卒の便益が大学進学の費用を上回れば、大学進学を決めると考えられます。

教育のリターンというのは、以下のことを言うらしいです。

理論的には、
投資の費用と教育1年あたりの賃金上昇率(教育のリターン)の関係です。

ただ、その計算というか比較がとても難しいので、3つの方法で計算するようです。1)1つ目は進学前に決まる要因、2)遺伝的に同じ性質を持つと思われる一卵性双生児のデータ分析、3)個人の進学意思とは無関係に進学の費用が変化する状況(自然実験)を利用した分析、だそうで、教育への投資は、1年当たり約10%のリターンを生むのだそうです。

第3回:賃金上昇だけではない好影響

教育の教育のリターンは大卒と高卒の賃金差に表れますが、それは国や時代で異なります。賃金差は高学歴者への需要と供給で決まるからです。大学の数が増えると大卒者の供給が増えます。大卒への需要が一定であれば、大卒の価値は下がります。しかし、技術が発展し、より高度な人材が必要になれば、高学歴者への需要は増大します。
大学院進学前に決定される要因を統計的に制御すると、大学院のリターンは男性で約16~23%、女性で約13~26%と推定されます。

個人的な感覚ではもっとあるようにも感じますが、大学院を出て、研究者としての経験を積めたことは本当に良かったですし、今の仕事にも確実に役立っていると言えます。

この回にとても大切なことが書かれてます。それは、労働市場での教育のリターンを考える上での2つの留意点です。

1点目:学歴が人的資本としての差を示すか
2点目:教育のもたらす影響は賃金上昇にとどまらない可能性

「学歴が良くたって、仕事ができるとは限らない」とい状況がすぐに思い浮かびますよね(なんか息苦しい,,,)。それよりも2点目が個人的にも納得がいくなと思うのですが、海外の研究事例によると「教育により犯罪発生が抑制」、「健康が増進」、「政治に関する知識が身につくことで政治参加が促進」、など広範囲にわたって教育が影響しているようです。

第4回:非認知スキルの重要性

教育水準は人的資本水準を示しているのでしょうか。教育年数には質の情報や学校外教育の影響が反映されていません。そのため、教育で身につくと考えられるスキルと、人的資本の関係が注目されています。
人的資本は、学力などの認知スキルとコミュニケーション能力などの非認知スキルのまとまりです。過去の蓄積や人的資本への投資、そして個人を取り巻く環境が、現在の人的資本を形成します。認知スキルと非認知スキル、そしてそれらへの投資効果は相互に関連すると考えられます。

頭が良くて、人当たりも良いってパターンが賃金とパラレルになりそうだなということは想像に難くないです。

認知スキルと非認知スキルを同時に考慮した分析の結果、認知スキルについては認知性熟慮テストや数的思考力、非認知スキルとしては外向性や自尊感情がそれぞれ賃金と正の相関を持つことのことで、概ね想像通りの結果です。

第5回:「学校」と「家庭」が生む成果

これまで見たように、労働市場での差は教育、そして形成されるスキルと関連します。教育によってスキルが形成され、それが将来の所得上昇につながる可能性が示唆されます。スキルの形成には学校教育の役割は無視できません。どのような教育がスキル形成に寄与するのでしょうか。
人的資本は、学力などの認知スキルとコミュニケーション能力などの非認知スキルのまとまりで、過去の蓄積や取り巻く環境の相互作用の結果です。学校教育の側から考えると、教育の生産関数と呼ばれる枠組みと対応します。

始めて知った「教育の生産関数」とう考え方。

教育の生産関数とは、
インプットである学校資源、家庭資源とアウトカムである学力などの関係を定式化したものです。
教育の生産関数は教育政策の評価の枠組みを提供してくれます。

クラス辺りの人数を変えたり、教育方法を変えるなどをした場合に、学力はどう変化するのか、費用対効果はどうかなど教育政策を定量的に評価できるようになります。

この方法論によって浮き彫りになったのは、学力が学校資源だけではなく、家庭資源(経済状況)にも依存するということ。教育格差解消を考えるためにはこの教育の生産関数は大切になるのですね。

第6回:児童手当、学力への寄与は少なめ

子どもへの現金給付と教育の関係を考えます。我が国において、子どものための現金給付は児童手当で、その目的は「児童の健やかな成長に資する」ことです。現行制度では中学校修了までが対象で、年齢や人数で異なりますが、1カ月あたり1万から1万5千円が支給されます。

家庭資源(経済状況)にも依存するという文脈で、児童手当が出されていたという認識はありませんでした。この手当と学力の関係を研究されたとのことで、以下のような結果となったとのことです。

制度変更による家計所得の変化が、子どもの学力や支出にどのような影響を与えたか、子どもの発達状況を追跡した「日本子どもパネル調査」で分析しました。その結果、世帯所得の増加は子どもへの支出を増やすものの、短期的には学力向上に寄与していませんでした。ただし、社会経済的に不利な世帯は、所得の変化に対する反応が大きい可能性も発見しています。
手当は子どもに使われているのかもしれませんが、その影響は後になって表れるのかもしれません。

感覚的には、家庭資源というよりも、家庭の教育への考え方というのがとても重要な気がしています。しっかりとした教育は、その人の人生において、賃金もそうですし、それ以外にもより良い影響があるという考え方が大切だと思っています。

第7回:少人数学級の効果は限定的

学校資源と教育の関係はどうでしょう。学校資源で最も注目されるのは、クラスサイズ縮小効果です。
クラスサイズの影響計測は容易ではありません。大人数クラスと少人数クラス、それぞれに所属する児童生徒の平均的な学力を比較しても、それはクラスサイズと学力の真の関係を示しているとは限りません。

実はこれも難しいテーマらしく、主流となっている研究方法が以下。

学級編成ルールを利用した研究が主流となります。1クラス40人以内とするルールを考えます。入学人数が40人ならば40人クラスですが、偶然の理由で入学人数が41人となれば、20人と21人のクラスに分割します。入学人数が40人と41人の学校が限りなく近い性質を持つならば、両者の学力差はクラスサイズによると見なせます。

研究結果としては、以下のように限定的な効果しかないようです。
・中学生ではクラスサイズ縮小の学力への効果は必ずしも大きくないものの、経済的に不利な生徒への効果は大きい
・公立学校の小4~中3の学力に対するクラスサイズ縮小効果は観察されない
・クラスサイズを半減させても児童生徒の学力の伸びに与える効果は、1カ月から2カ月分程度

第8回:オンライン教育、格差拡大懸念も

新型コロナウイルスの世界的な流行で、教育におけるICT(情報通信技術)の活用が話題になりました。ICTと教育の関係を考えましょう。
ICT設備を学校資源の一つと考えると、クラスサイズと同様に教育の生産関数の枠組みで考えることができます。ICT教育といっても、オンラインコースの受講、教育にデジタル技術を活用する「EdTech(エドテック)」によるメッセージ介入など、その方法は様々です。ICT利用と教育成果の関係は世界中で精力的に研究されていますが、日本での研究蓄積は多くありません。

現在のところ、ICT化による効果を研究したものは少ないものの、今ところ短期的な学力向上ではなく、長期的な学習姿勢への好影響がありそうだということです。

本文にもあるように、オンライン教材は休校時の学校学習を下支えした可能性があるとのことで、それは大切な視点だと思います。ただ、ネット環境といった環境の差に起因する教育格差の可能性が示唆されているとのことで、これについてはその差を埋める施策が必要だと感じました。

以前に書いた記事なのですが、教育のデジタル化はコロナ禍で自宅で学習する我が子を見て本当に大切だなと感じているテーマです。どこでも学習を続けられるような基盤は、教育機会のリスクヘッジになりうると思っています。ただ、教育格差を助長する可能性もあることは肝に銘じておきたいと思います。

第9回:活用進む自治体行政データ

これからの2回は、教育経済学研究における新しい流れを紹介します。
まず、自治体行政データを用いた分析です。費用対効果の視点から教育施策の影響評価は重要ですが、データが制約され分析事例は多くありません。この状況を打破する試みとして、特定の自治体を対象とした分析が注目されています。
自治体行政データとは、地方自治体が実施する業務に付随して必然的に蓄積される情報です。それらを個人が特定されない形で、研究目的に利用することで政策的にも研究的にも有意義な発見がされています。

本当に色々なデータを利用した研究はどんどんされて欲しいと思います!埼玉県、埼玉県戸田市、東京都足立区、大阪府箕面市、そして兵庫県尼崎市の事例が有名なのだそうです。知りませんでした。

自治体行政データ活用の利点は観測数の多さだそうで、高度な統計手法に対応でき、アンケートなど標本調査では捕捉しにくい少数グループの状況把握も可能になるとのことです。

データの粒度が分析向きなのだろうと想像しています。

第10回:検証続く施策や手法の効果

最後に、教育施策を学力以外で評価した研究や、教育手法の効果検証に関する研究の流れを紹介します。これまで、学力に代表される認知スキルの上昇で教育施策を評価する研究が多かったのですが、連載の4回目で紹介したように、労働市場では非認知スキルも重視されています。

結論としては、色々な取り組みがなされているものの、教育と投資という切り口での研究をする方法論は未だに発展途上であり、色々な試みがなされているのが現状という事。研究に用いるデータをしっかりと整備しつつ、計測し続けなくてはいけない、息の長い取り組みなのだなと感じました。


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