見出し画像

新型コロナ関連の論文分析のはなし

クラリベイト・アナリティクスと日経新聞共同の論文調査があったのでご紹介したいと思います。

こんな出だしとなっています。

新型コロナウイルス感染症の研究論文に世界の注目が集まっている。学術データ大手の英クラリベイトと日本経済新聞社の共同調査で、一部のものが、すでに1000回以上他の研究者の論文に引用されていることがわかった。2020年に引用された全分野の科学論文のうち2割が新型コロナ関連で占められていた。流行初期の論文が集中的に引用され、研究が他の分野に類を見ない速さで進んでいることを示す。

実は私の前職はクラリベイト・アナリティクスなんですが、そこではちょくちょく論文分析をしていて、今となってはとても懐かしいです。
論文分析で使用する指標の多くは、論文数(論文を何本発表したかと言う活動度)と被引用数(論文がどれだけ引用されたかと言う影響度)に行き着きます。しかし、それ以外にも論文には色々な情報が詰まっています。例えば、発表年月日、著者情報(名前、所属)、引用情報(どの論文を引用しているか)、論文の内容(研究分野・領域)なども分析の軸となる情報になります。

例えば、Aさんが著者の論文が5本あるとします。すると、論文数=5とカウントされ、その5本の論文を引用している論文が20本あると、被引用数=20となります。著者には必ず海外機関のBさんと共著となっていれば、国際共著率は100%で、Bさんとの関連が深い(共著なので)と言うことが分かりますし、その5本の論文で引用している論文を見るとCさんの論文が散見され、そのCさんの論文をAさんとは全く違う研究分野のDさんが引用(共引用)していることも分かるので、新しい共同研究の可能性が見えることもあります。

クラリベイトは、コロナの流行が始まった20年初めから9月28日までに世界の主要科学誌に掲載された論文約150万8000件を対象に、引用状況を解析した。新型コロナ関連の論文は2万5660件で、全論文の1.7%程度。しかし新型コロナの論文が同期間に引用された延べ回数は約17万回で、2020年に引用されたうちの2割は新型コロナ関連だった。

簡単に言うと、いろんな論文が発表されていて、新型コロナ関連の論文数は全体からすると2%弱であるものの、被引用数は全体の20 %を占めるほど注目されていた、と言うことになります。

引用回数が最も多かったのは流行初期の中国の患者の症状を1月下旬に報告した論文で、約4300回だった。この論文を含む患者の症状やウイルスの特定などを報告した11本の論文が約9カ月で1000回以上引用されていた。

14年の英科学誌ネイチャーの調査では、1900年から近年までの100年超の間で発表された論文のうち、1000回以上引用された論文はわずか0.025%だ。1年未満の間に1000回以上引用される論文が10本以上あるというのは珍しく、パンデミック(世界的大流行)となった感染症に対処するために世界中の研究者が猛スピードで英知を注ぎ込んだ証拠といえる。

新型コロナ関連の論文が1000回の引用された論文が11本あると言うのは、それだけ注目されていることを意味しています。そんな論文の内容は、「流行初期の感染者の症状」、「原因ウイルスの特定」、「人から人への感染経路の分析」、「ウイルスのゲノム解析」でした。誰もわからないから、そうしたトピックを扱う論文が注目されるのが興味深い。

ちょうどこの記事を書いていたら、2020年11月8日日曜日のNHKスペシャルで論文分析を使った新型コロナ特集が組まれていました。

番組で興味深かった内容を書いておきます。

・気温と湿度がウイルスの生存に寄与すると言うトピックが上位
 夏場は2時間しか生存できないが、冬場は15時間も生存できる
→日本でも感染者増加が懸念される

・死亡率が低い理由と関係がある論文(キーワード急上昇0
→交差免疫(別のウイルスにも反応する)、特に季節性のコロナウイルスへの感染歴(5年以内)があると重症化する割合が低いと言う結果がある
→日本でコロナ患者50人を調べると、75%に交差免疫があることが分かり、重症化リスクの低減に関係している

・マスクと免疫の関係
→マスクにより微量感染を繰り返し、免疫を獲得すると考えられている。

・新型コロナに関連する症状が100以上あると報告され、その中で脳の霧(Brain fog)と呼ばれる症状が注目されている。
→認知機能が低下する患者の脳で炎症が起きている。脳の中心部(脈絡叢)にもウイルスが結合するACE2があり、ここで感染が広がり、炎症が長く続くと考えられている(倦怠感、思考力低下などが起きる)
→ACE2は全身に分布しているため、多くの部位で影響が起きる

・ウイルス対策(上位5つ:消毒技術、紫外線、不活化、温度?、加湿)
→加湿により気道の奥の線毛がウイルスを外に出す力を引き出せる(40〜60%がいい)。また、飛沫が遠くに飛びづらくなる。
→紫外線(UV-C/222nm)がコロナウイルスに影響があるが、この紫外線は甚大に悪影響がないとされる波長。10秒で無害化できる。

この番組で紹介されていることはある意味知っていることも多かったけれども、それでもそうした自分の知識が裏打ちされるというのは大切で、しっかりとしたエビデンスを研究者の方々が積み上げていて、その科学的知見を私たちはしっかりと利用していくことがこの新型コロナでは求められていると思います。手洗い、マスク、三密を避けるといった基本行動とともに、新しい知見を生活に組み入れて、より安心・安全に暮らしていきたいなぁと思うばかりです。

そして、最後に論文分析のいいところは、全体を見た上で個別のトレンドを見極めら得ると言う点があります。個人が持つ先入観をなるべく排除して、どのような傾向にあるのかを見極める作業になります。その先に、個人の持つ知識・経験をおり重ねて新しい仮説を立て、実証する。これがサイエンスの変わらないやり方だと私は思っています。

そして忘れてはならないのは、こうしたAI分析は凄いのだけれど、やはりその向こうに研究をしている研究者という人がいることを忘れてはいけないと思います。

#COMEMO #NIKKEI #論文分析 #新型コロナウイルス #Nスペ

この記事を読んでいただいたみなさまへ 本当にありがとうございます! 感想とか教えて貰えると嬉しいです(^-^)