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【エッセイ】 つゆくさ

 子供の時以来、あまり見ることのなかった花だからだろう、露草の青は古び、懐かしさばかりを呼び覚ます、これと語ることのない夏を、湿度と、暑さと、麦わら帽子のひなびた匂いを。

 不思議なものだ、野花に古い、新しいなどと思うのは、それらは絶えることなく咲き、枯れ、再び芽生えを繰り返し、それこそ何千年の昔から、同じ姿でいるというのに、たった数十年の間を生きる者が、古びた青と見るのだから。

 青い花は珍しく、その青を欲するがため、指にぐちゃぐちゃと花弁を潰すが、青には染まらぬ、本の間に挟んでも、その青は色褪せる、夏のひととき、その間だけ、ひっそりと露に濡れている、その旺盛な生命力に似合わぬ奥ゆかしさを秘めて。

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