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【詩】遠くへ

最たるものの果ては
ある詩人の死によって
永遠の謎となったのであった

私の手のひらの生命線
この指紋のゆるやかなカーブ
幾重にもまるで年輪か
甘いにおいのバウムクーヘンのように
死ぬまで変わらぬ文様
刻まれたのはいくつ目の細胞が
何度目の分裂をした時であったか

ハロウィーン前夜の
染み付くような夜空の雲
月の明かりで金色の裏打
こめかみが引き攣るような
奇妙な山のような雲

あんなにも、あんなにも、
熱病のように浮かされた名が
もうどこにも見当たらない

あんなにも、あんなにも、
触れるだけで幸福感が滲んだ指が
もうどこにも見当たらない

あんなにも、あんなにも、
やわらかで濡れて吸い付く唇が
もうどこにも見当たらない

あんなにも、あんなにも、
左耳を優しく撫で回した少し低い声が
もうどこにも見当たらない

執着を捨てるという
希望的未来像への無形の投資
救われたいばかりに
私は私に救われたいばかりに
こんなに遠くへ来てしまった

こんなに遠くへ来てしまった

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