見出し画像

紙一重のあいだで

500mlの点滴がポツン、ポツンと焦ったいほどゆっくり落ちていくのを眺めながら、わたしは何を考えていたのか思い出せない。換気のために開けていた窓が近くにあったから寒くて、でもお腹は痛くて、血管が細いからとなかなかうまくいかず何度か刺し直された左腕はじーんと痛んだ。

救急にひっきりなしにかかってくる電話。時々お医者さんが「コンビニじゃねーのにな。」と愚痴をこぼしていて、わたしも我慢するべきだったかと自己嫌悪に陥った。でもお腹はやっぱり痛かった。

虫垂炎の疑いがあったけれど結果はただのリンパ腺の腫れだった。疲労とかストレスからくる免疫力低下。わたしはここまで身体が弱っていたのかとさらにげんなりした。不調を分かっていたのに、放っておいたせい。反省をした。

たぶん、わたしは我慢強いほうだ。我慢強いというか、見栄っ張りというほうが近いのかもしれないけれど。耐えるところまで耐えよう、と思ってしまう。でも、耐えるところまで耐えると、それはつまり限界を迎える。だから、爆発して、取り返しがつかないところにきてしまうこともある。

我慢とストレスを抱えることは紙一重だなあと思いながら、健康第一だと痛感する。これで何度目だろう。健康が大事だということなんてこれまで何度も何度も心に留めてきたのに。やっぱり、人は忘れる生き物だ。

とりあえず痛み止めの点滴だけして帰路についた。大慌てで迎えに来てくれた夫のお母さん。ごめんなさいとありがとうの気持ちで溢れた。

ごめんなさいとありがとうも紙一重の気持ちだなあと思った。だからなるべくありがとうと言おうと思って、わたしは何度もお礼を言った。

結婚式まで1ヶ月を切った。2月は日にちが少ないからもっと短い。わたしは、ワクワクというより、この間noteに書いたような「ちゃんとしたい」という気持ちでいっぱいになっていた。

ちゃんとすることとはなにか、もう一度考える。ちゃんとする、ということのなかには、わたしが心から幸せな日を過ごす、ということも含まれているはずだった。

そんなことを考えていた。今日は暖かい。

でも、心から幸せだと思える日ってわたしはまだ味わったことがないのかもしれない。いつだって9割の喜びと1割の不安があったからだとおもう。嬉しい時には、不安があった。1割だけれど、その不安はとっても大きくて、喜びが大きくなればなるほど、その不安も比例して大きくなった。

ただ、ただ、おおっぴらに両手を広げて、笑える日って人生に何回あるんだろう。気が滅入った今はそういうことを考えてしまう。

だから、結婚式だけは。その日だけは。ただただ、嬉しいだけであることに期待をしているのかもしれない。自分が決めたことが、きっと正しかったと自信を持てる日。自分の人生は素晴らしかったと誇らしく思える日。そういう日にどうしたってしたいと思っているのかもしれない。

========================

友だちの話をしよう。

すごく大切な友だちの友だちが遠くへ行ってしまった。大切な友だちは初めて、わたしの前で泣いた。悲しいのではなく、悔しいのだと。わたしもまた悔しかった。もっと早くこうして彼女を泣かせてあげたかったということに。彼女のことが大好きだった。彼女といるととびきり盛り上がるわけではない。でも小さな感動があった。思わず彼女を抱きしめたくなるような、小さな感動がいつもあった。時折、真剣な話をして、時折、どうでもいい話をして、時折、すこし壁を感じて、でもたまに思い切り心を開いてくれた。

わたしはそれが嬉しくて、みんなは意外だと言ったけれど私たちはいつだって親友だった。

わたしはいつも不思議に思う。一生一緒に全てを分かち合うために、友だちでは不十分なこと。夫婦は、男女は、付き合うとか結婚するとかそういう協定があって、その取り決めによって一生を分け合うことができる。友だちは、なんて不確かなんだろう。流動的すぎる。そう思って、あの日わたしは嘆いた。

でも、友達のいいところもある、ということも分かっている。いつからでも始められて、いつでもぐんと近くにいられる。会いたいときに会える。抱きしめたいときに抱きしめられる。なにより、協定がないから、おわりがない。友情が永遠だということは、本当のことだと思う。

友達の柔さと、強さ。わたしはその両方をもちろん愛している。だから、たまに虚しいのだ。

もうお腹が痛くなくなった帰り道、迎えに行くよとパパから連絡がくる帰り道、わたしは空の向こうの友達を思っていた。

このnoteは何日かにかけて書いたから、やっぱり取り止めがなくなってしまった。でも今のわたしはこんな感じ。だから、いいかなと思う。

読んでいただいてありがとうございます。もしも、共感してくださったり、興味を持ってくださったりして、サポートしたいと思ってくださったらとっても嬉しいです!