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夢の剣

“いつかあいつに勝ってやる!”
叫ぶだけならタダだから
寝っ転がって繰り返す
その日が来るのを待つだけで
自分で立てる気もしない

負ける資格すら持ってない
心の奥じゃ分かってる
敵から身を守れるように
死にたくないから準備する
言い訳の盾を振りかざし
自嘲の鎧で完全武装

夢の剣は重たくて
持っても落してしまうから……

ガラスのケースに入れられて
飾られるだけのあの剣
たまに思い出して眺めて
うっとり酔って ご満悦

“ここからが俺の戦場だ!”
口上だけは一丁前
戦う覚悟も気力もない
腰に空っぽの鞘を差し
震える足で立ちすくむ

援軍なんて来るはずない
聞かなくたって分かってる
傷つく前に逃げられるように
死にたくないから準備する
怠惰の兜を抱き締めて
諦観の馬で退却用意

夢の剣は鋭くて
持っても怪我するだけだから……

美しいのは見かけだけ
何も切れないあの剣
外側だけしか見ないから
鈍っているのも気づかない

鎧は溶けて 盾は消え
敗残兵と罵られ
兜は重く 馬は逃げ
頭上に揺れる白い旗
唯一残った空の鞘
ため息と共に踏みつぶす

戦いなんて向いてない
本当はずっと分かってた
剣も捨てることにして
ガラスのケースを叩き割る

初めて触れたその柄は
重くもなければ硬くもない
ふわふわ軽いナマクラだけど
大事に隠して 守って 育てた……

たったひとつの俺の夢
それは 確かに武器だった

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