見出し画像

【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記 番外編

如月

べっぴんさん

「あら、別嬪べっぴんさんね」 
 リョウちゃんが、アーちゃんのうちに遊びに行った時のことです。道すがら、アーちゃんと話すのに夢中で、誰かにぶつかりそうになりました。ふっと顔を上げた時に耳に飛び込んできた言葉でした。

「あっ、おばさん。こんちは」
「アーちゃん、元気?」
 アーちゃんのおばさんだとわかりましたが、リョウちゃんは恥ずかしくてうつむいてしまいました。
「アーちゃんのお友達? 別嬪さんよね」

 伯母さんは、もう一度口にしました。べっぴんさんという言葉を、リョウちゃんは知りませんでした。でも口調から、悪い意味ではないとわかりました。
 後で、ママに教えてもらおう。


 リョウちゃんはチーちゃん(【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記 皐月参照)の妹です。リョウちゃんは、ターちゃん、アーちゃん、チーちゃんの輪に入って遊ぶようになりました。馴れてくるにつれて、チーちゃんが一緒でなくても、ターちゃんやアーちゃんと遊ぶようになりました。


 リョウちゃんは忘れないよう、「べっぴんさん、べっぴんさん」と、頭の中で繰り返します。遊んでいても、気もそぞろ。気になって仕方ありません。
「帰る」
 呆気あっけにとられるアーちゃんを後目しりめに、リョウちゃんは帰ってしまいました。

 リョウちゃんは玄関に入るや否や、
「ママーっ、ママーっ」
 と声を張り上げます。
「あら、どうしたの」
「ママ、べっぴんさん、って何?」
「まあ、そんな言葉、どこで覚えたの?」
「アーちゃんのおばちゃんがね、リョウにそう言ったの」

 リョウちゃんのママは笑いながら、
「きれいな人って意味だけど、リョウは小さいから可愛いという意味かな」
 やっと胸のつかえが下りたリョウちゃん、しかも可愛いと聞いてにんまりです。
「アーちゃんちに行ってくる」
 元気な声で出ていきました。

 小さいけれど、リョウちゃんも、立派に女子なのでした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ちなみに。
 ずっと後になって聞いた話ですが、

 リョウちゃんの初恋の相手はターちゃんだったそうです。


よろしければサポートお願いします。また読んで頂けるよう、引き続き頑張ります。