来戸 廉
今まで投稿したショート・ショートを纏めました。2,000文字以下の短い話ですが、「落ち(下げ)」に拘って書いてます。
今まで投稿した短編を纏めました。
今まで投稿したショート・ショートを纏めました。少しブラックめいたもので、2,000文字以下の短い話です。「落ち(下げ)」に拘って書いてます。
少しブラックめいたものを纏めました。
あらすじ:散歩から戻り、朝食を摂りながらラジオを聞く。それが私の日常だった。ある日、いつものラジオ番組で、一年ほど前になくなったはずの君のリクエストが読まれた。私は椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。混乱しながらも、君と過ごした日々を思い出す。それはとても奇妙な思い出だった……。
改めまして、来戸 廉と申します。主に、短編、ショート・ショートを書いています。過去作、新作を交えて公開しております。 好きな作家は、星新一、阿刀田高、サキ、池波正太郎、柴田錬三郎、葉室麟、他です。 幼少の頃は漫画ばかり読んでいました。小学4年生ぐらいだったと思いますが、夏休みの宿題で読書感想文を書くというのがありました。その時選んだ本が、「813」でした。数字だけの書名に惹かれて手に取りました。ルパン物です。面白かったでのすが、読書感想文を書くにはそぐわない本でした。
『あなたの記事が合計800スキされました!』 読んでスキを下さった方々、ありがとうございます。励みになります。 連続投稿も88日を数えました。まずは100日を目標に、気張らずに頑張ります。
「ねぇっ、夕食に何が食べたい?」 子供達の部屋に顔を出して、尋ねる。 「別にっ、何でもいいよ」 次男が、マンガ本に見入ったまま、顔も上げずに答える。 「あんたは」 「俺も」 長男は、テレビゲームのコントローラを叩き続けている。 「何でもいいわけないでしょ。気に入らないと、食べないくせに、もうっ」 つい声を荒げてしまう。 ――あーあっ、聞いた私が、馬鹿だった。 毎日の献立。考える私も疲れてしまう。 子供部屋のドアを閉めると、夫が部屋から顔を出した。 「買い物、付
今年も我が家の軒下に、ツバメが新しく巣を作り始めた。 ちょうど去年の今頃。 ベランダに出た時、雛が弱々しく翼を震わしているのを見つけた。まだも羽毛も生え揃わず、目も開いていない。 「おとうさん、ちょっと来て」 いたたまれなくなって、急いで夫を呼ぶ。 「多分ツバメだと思うの、あの巣から落ちたみたい」 夫は、ティッシュを何枚か丸めて巣を作り、その中に雛を入れた。 力無く横たわっている雛を見て、私は息子が産まれた時のことを思い出した。 産後の肥立ちも順調で、退院予
(3,023文字) 眩しくて目を覚したら、燦々と降り注ぐ陽のもと、バス停のベンチで寝ていた。 あれっ、ここはどこ? 白い壁の家は? あの女の人は? きょろきょろと見回す。辺りにはのどかな景色が広がっている。 あれは何だったんだろう。 思い出そうとしても、頭に靄が掛かっている。 夢だったのだろうか。僕は頭を何度も振った。 とにかく叔父の家へ急ごう。 バス停を見ると滝川とあった。時刻表にM駅行きがあるのを確認して、ほっとした。しばらく歩くと坂下のバス停があ
(2,753文字) 妻が庭の芝に散水している。その傍らを三歳になる娘が走り回る。白いワンピースの裾がなびいている。妻は娘を出来るだけ避けようとしているが、それでも少しは飛沫が掛かるらしく、その度に小さい叫び声が上がる。 私はそれを眺めている。空にはギラギラと太陽がどっしりと胡座をかいている。 静かな午後だ。 ■ 先日、叔母が亡くなった。私の母の弟の連れ合いだった。叔父はとうに鬼籍に入っている。二人には子供がいなかったので、実家を継いだ従兄弟の孝男が葬儀を取り仕切
(3,714文字) 5 金沢街道を歩いて、鶴岡八幡宮に向かう。 明子は岡村の腕を取って歩く。二の腕に明子の胸の膨らみが当たる。岡村は離そうとするが、明子は更に押しつけるように腕を絡ませてくる。コートの上からでも分かるくらい、若さが弾んでいる。無邪気なのか、挑発しているのか。岡村は判断が付かないでいた。 明子は平気な顔をしている。流石に岡村は、傍目に自分たちがどういう風に見えているか気になった。 「休みの日は、何しよっと。仕事?」 「うん、そんな時もある。あとは、小
(4,156文字) 1 岡村にとって、この年の忘年会はあまり気乗りがしないものだった。ここ何年か欠席し続けていたため、今年ぐらいは出てみるかと参加したのだが、始まって十分もしないのに既に後悔し始めている。四十歳を過ぎて少しは良くなったものの、仕事を離れた人付き合いが苦手なうえに、下戸ということも相まって気を重くしていた。 忘年会は、部長の挨拶から始まって、後は無礼講というお決まりのコース。頼んであったのか、コンパニオンが並んで挨拶をする。一向に興に乗れない。何が面白
夫が、私の誕生日プレゼントに手巻き式の腕時計をくれた。 「俺のと同じメーカーの物だぞ」 夫はデジタル時計が好きでない。 「高かったんでしょう?」 「それほどでもない」 「いくらしたの?」 答えないところを見ると、結構な額を出したようだ。 私は今使っている電池式で不満はなかったから、前もって聞かれれば他の物をおねだりしたのに。 手巻き式の腕時計は、巻き忘れると直ぐに止まってしまう。そのせいで電車に乗り遅れたこともある。 手が掛かるところは全く誰かさんと同じ。
「それじゃ、だめだよ」 折り目が甘いし、翼の形も左右歪だけれど、君は一向に気にしない。 「要は飛べばいいのよ」 私は片目をつぶって左右の翼のバランスを確かめる。君はそんな私を後目に、作りたての紙飛行機を持って庭に飛び出した。 「仕様がないなあ」 定規で測ったように左右対称で、触れれば切れそうな程きっちり折り目を付けた私の飛行機は、それだけで美しいと思う。 私は、それを手に君を追いかけた。 スナップを利かせながら空中に放つ。 私の紙飛行機は、真っ直ぐ飛んで、折から
(3,009文字) カーテンの向こう側は、夜の帳がまだ残っている。 山崎弘美は、先程けたたましい電話の呼び鈴に起こされたばかりだ。 この電話は、先日、田辺真一が持ち込んできた物。やたらベルの音が大きい。まだ慣れないせいか、静寂を打ち破る音に心臓が飛び出しそうになる。 どこかの骨董屋で見つけてきた代物だそうだ。ダイヤル式の実用一点張りの無骨なデザイン。真っ赤な色が、ちょっとモダン。 真一は、アーリーアメリカンの匂いがすると言うが、弘美の目にはどう贔屓目に見てもが
いつだったか夫に尋ねたことがある。 「子供の頃、何になりたかったの?」 「古本屋のオヤジかな」 夫は即答した。その姿を想像したらおかしくて、笑いが止まらなくなった。 「やっぱり変かぁ?」 「いや、あまりに似合いすぎてる」 涙が出てきた。 あら、この本、結構面白いわね。 私は、ページをめくる手を速める。長い看病生活ですっかり本を読む習慣が身に付いた。そのせいか、夫の世界に少し近づいた気がする。 夫の唯一の趣味が読書である。自らを活字中毒症と称している。面白ければ
「そーっとだぞ」 靴のまま、僕は静かに川に足を入れる。 「冷たいっ」 背中は焼けるように熱いのに、流れは痺れるほど冷たい。半ズボンの裾が濡れた。 「そっちに回れ」 岸に生い茂った茅の葉が垂れ下がって水面に陰を作っている。そういう所が絶好のポイントだと、父から教わった。 「下流の方から、そうっと近寄るんだ。でないと、人の臭いで魚が逃げてしまうぞ」 僕は抜き足差し足で近づく。 夏休み。父の実家に行った時のこと。 所在なくゲームをしていると、父が魚捕りに行こうかと誘う
何で来てしまったんだろう。 学校で毎日顔を合わせていても話せないのに、二人きりで面と向かったら何にも言えず逃げ出してしまいそうだ。 しっかりしろ、聡美。 自分を鼓舞する。 明日は卒業式。高校は別々になるから、今日が自分の気持ちを伝える最後のチャンスだ。 一大決心をしてきたものの、聡美はもう何度も家の前を行ったり来たりしている。聡美にとっては、何時間もの出来事にも思えたが、実際には数分のことに過ぎない。 思い切って玄関のインターフォンに指を伸ばす。ボタンまで1
(4.698文字) おーい。お銚子の首を摘まんで掲げたところで、妻と目が合った。まだ寒さが残るこの時期やはり熱燗がいい。 「糖尿病だって、医者に言われてるんでしょう」 妻の言葉が耳に刺さる。 「正確には予備軍だけどな。あと一本だけ」 大仰に拝むと、困ったわねと眉を顰める。夕餉の準備も終わったようだ。「お前も一献どうだ」と誘うと、妻は向かいに座った。妻はくいっと一気に飲み干すと、 「来週の日曜日は大丈夫よね?」 と聞いてきた。 「来週の日曜日? 何だっけ?」 「もう
私の携帯がぶるっと揺れてメールの着信を報せた。画面を開くと、件名に「💗」だけが表示されている。 えっ、懐かしいなあ。 私の心を軽い驚きと喜びと、そして少しばかりの感傷が過る。 圭子はアルバイトで入った娘で、私の職場に配置されてきた。高校を卒業したばかりだった。 圭子は、仕草が可愛い、初々しさが事務服を着たような娘だった。 折角ならアルバイトではなく正規の職に就けばと思うのだが、彼女にはやりたいことがあると言う。だから時間に縛られたくないのだそうだ。 仕事を教