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de&iマガジン〜ダイバーシティ関連記事〜

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ダイバーシティ・コンテンツ・リサーチャー草冠結太のマガジンです。ダイバーシティ&インクルージョンを感じられるイベントやコンテンツに関する記事をまとめます。あとヒップホップも。
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記事一覧

親子で体験した「目が見えない」の向こうがわ〜ノービジョン・ダンジョン冒険記〜

「どこがゴールデンやねん」 妻がカレンダーに毒づいた。 春の大型連休。谷間の平日は有休奨励日とかいうやつで、正社員様はみな休み。そのシワよせは契約社員である妻にきて、彼女の眉間にも深いシワがよっていた。 似たくないところほど似てくるのが夫婦。私も飛石連休だった。 とはいえ、腐っても連休。ふだん行けないところへ、娘を連れていきたいと思っていた。 ハイシーズンの旅券に手が出ないわけじゃないが、断じてそうじゃないが、身近にだって知らない世界への扉は開いていたりするものだ。 だ

刑務所アート展と私の父親たち

全国66か所で運営されている。 つとめている人は、2022年末時点で約3万6,000人。 これが刑務所と受刑者のことだと知った時、私は 「上場企業かよ」 と驚いてしまった。 しかしよく考えれば、意外でもなんでもない。刑務所は法務省が所管する、三権分立の重要な一部なのだ。 刑務所という制度について。所内の環境について。 そして何より、受刑者について。私はその日、多くのことを学んだ。 今年(2024年)の3月下旬。東京・北千住で催されていた、刑務所アート展でのことだった。 ア

うつと筋トレ〜日本一あかるい鬱日記〜 #3 嫌な予感とカウンセリング

嫌な予感ほど、よく当たる。 初カウンセリングの日も、のっけから不吉だった。 降水確率は50%。降るか降らないか半々のはずが、降る気満々な強雨となった。 そもそも確率50%というのは、予報と言えるのか。そんな日はいっそコイントスで決めてくれたほうが、諦めもつく。 びしょぬれで到着したメンタルクリニックの窓口では、受付の人がスマホに没頭していた。 右手でスクロール&ストップを繰り返し、左手で私の診察券と保険証の受け取る。離れ業だった。 その間、視線は画面に固定され、他には一切

トランスマーチとチョコレートケーキ

娘の名づけで、後悔していることがある。 ヤバッ。我ながら、まさかあんな不覚をとるとは。 そしてこんなに早く、娘にバレる日が来るとは。 その日とは今年の3月31日。国際トランスジェンダー認知の日だった。 私と娘は東京のJR新宿駅前で、トランスマーチのパレードがやってくるのを待っていた。 正式名称は「東京トランスマーチ2023」。トランスジェンダーの権利と差別反対を訴える催しで、私たちは沿道から声援を送ろうとスタンバっていた。 目の前は、日本最大のバスターミナルの一つ、バス

もしS君が母と夫婦になれてたら〜トランスジェンダーと家族と結婚と〜

彼は美輪明宏様の生まれ変わりなんじゃないか。 そう信じているほど、私はドリアン・ロロブリジーダさんを敬愛している。その氏が先日、結婚された。パートナーはトランス男性とのこと。 数日後、トランス女性とトランス男性夫婦のインタビュー記事を読んだ。 どちらのカップルにも幸多からんことを。どうか末永く。 ちなみに。2024年3月時点で、美輪様はまだ死んでない。たぶん美輪様は死なない。 それはさておき。ニュースを目にして、むかし一緒に暮らしていたS君のことを思い出していた。 私が大

うつと筋トレ〜日本一あかるい鬱日記〜 #2 そういうとこだぞ、Y先生

薬って、効くんですね。 それを痛感した一ヶ月だった。 前回の診察後、かなりヘビーな日々が続いた。 めまい。倦怠感。思考がフリーズするほどの焦燥。 うなされて起きる、という夢を見て、うなされて起きたこともあった。悪夢のマトリョーシカ。 筋トレなんて夢のまた夢。なにせ身体のどこにも力が入らない。 そんな生きた心地のしない時間に、薬は心強かった。 優しく効くもので、かつ微量。症状の軽減は薄皮一枚ほどだが、それだけでも心持ちはずいぶん違った。溺れるような息苦しさに襲われることもな

うつと筋トレ〜日本一あかるい鬱日記〜 #1 人気の無さを気にする担当医

「とりあえず、そのポケモンGOをお休みするのはいかがでしょう?」  担当医が言った。ニコリとしたものの、笑顔には見えなかった。想定外の結論ゲットだぜ。 夕暮れの診察室。私は初めて心療内科を訪れていた。 「いやね、先生。レアポケモンをゲットすると、娘が喜ぶんてすよ」  「でも、その娘さんを泣かせちゃったわけですよね?」 ぐうの音も出なかった。 隣の部屋では心が寝込んでしまった誰かが、窒息しそうな胸の内を打ち明けているに違いない。なのにこちらは、最初の診断がポケGO禁止。情けな

同性婚から見えてくる、誰かと手をつないで生きていくということ

今月からメンタルクリニックに通い出した。いきなりスミマセン。 とはいえ、今どきそれほど珍しい話でもないだろう。脳みそだって内臓だ。人間40年以上も生きてれば、一回くらい心が腹痛を起こしてもおかしくはない。 最大要因は仕事のストレス。そこに家事の負担が追い討ちになって、コップがいっぱいに。娘に辛く当たり始めてしまった。 これはマズいと、病院に駆け込んだ次第。 そんなときに限って、結婚や家族をテーマにした作品やイベントに立て続けに出くわすのだから皮肉なものだ。出くわすもなにも自

【ベスト10】2023年面白かったダイバーシティな映画たち

2023年は60本以上の映画を観ました。中途半端な本数。 その中でもとくに面白かったダイバーシティな映画を10本に絞ってご紹介します。今も観られるものがあるので、ご参考までに。 「チョコレートな人々」 代表の夏目さん最高。チョコレート美味しそう。というか美味しかった。 「エゴイスト」 鈴木亮平くん、宮沢氷魚くん、最高。 「二十歳の息子」 「父親」になったゲイの男性と、施設で育った「息子」。これは少し不思議な、普通と違った「家族」のドキュメンタリー。 「ストレンジ

元・結婚情報誌編集者が見た映画「老ナルキソス」の面白さと、ゼクシィのゆくえ

かつて、結婚情報誌の編集者でした。 今はダイバーシティをテーマにしていることもあり、セクシュアル・マイノリティに関する作品や報道に触れることが増えました。 そんな私にとって東海林毅監督の映画「老ナルキソス」は、今年の日本オレデミー賞の一つ。 ゲイとしての生き方やカルチャー、それらを取り巻く社会を、過去から現在へつないで描きながら、その延長線上に家族というものを問いかける。 映画というアートフォームはこういう作品のためにある、とまで感じました。 波打つ感情がようやく落ち着

ルールを疑え。パラスポーツイベントで感じた、「対話」の先にある可能性。

ひたすら怒りをぶつけて、何か解決したことありますか? 私はありません。 この歳になると、思うのです。人間、怒り方にこそ芸が必要だと。 パパ、イベント運営スタッフに噛み付く というのもですね。先月「BEYOND STADIUM 2023 パラスポーツ ワンダーランド」というイベントに行ったんです。小一の娘と。その名の通り、パラスポーツを知ったり体験したりするイベントでした。 たかだかのスポーツイベントに”ワンダーランド”とは大きく出たもんだな、と思っていたら。 ゲートをく

元創価学会少年が思い出す、池田大作氏の自宅に招かれた遠い記憶

池田大作氏が亡くなった。 氏に恨みつらみはないので、敬称を使うことにする。 訃報に触れて、氏の自宅に招かれたことを思い出した。 私は、小学生の高学年だった。 もう30年以上も前のこと。その間に棄教もしているから、かなり霞んだ記憶だが。 「今度、先生のお宅にお邪魔できるって」 母親は海外旅行でも当選したかのように言った。我が家で先生といえば、担任ではなく池田氏だった。 「先生のお宅は、たしか大田区」 祖母が東北訛りで、そう呟いていた気がする。氏の家が、まだ出身地にあると思

難民・移民フェスと、隣人と生るためのヒップホップ

今年の秋は、ほんの数日しかなかった気がする。 貴重な秋晴れの日、11月4日に難民・移民フェスへ行った。 日本に住む難民と移民を知る・関わる・応援する、今回で第四回のチャリティフェス。私にとっては、川口、練馬と続けて三度目の参加だった。 会場に着くと、今回もミャンマーやフィリピン、クルドなど、さまざまな国や地域、民族の料理が出店されていた。雑貨を売っていたり、ワークショップなんてのも。そして今回もどれも美味しく、可愛く、楽しそうだった。 だからどのブースも人気。とぐろを巻くほ

手話表現ワークショップに初参加。親子で感じたコミュニケーションの可能性

「10円パン」なのに、500円もするのかよ。 10円パンというものが、行列ができるほどの人気らしい。 娘はインスタグラムで見たらしく、食べてみたいという。 それにしても、高い。 しかし、娘を渋谷に連れ出すいい口実ができた。私には、一緒に行きたいワークショップがあった。 タイトルは「手のコトバ」。会場は東京都渋谷公園通りギャラリー。 ワークショップの内容はいたってシンプルで、声による言語を使わずに知らない人とコミュニケーションをとってみる、というものだった。 アート作品をみ