Kusale

物語だいすき。小説、アニメ、漫画。

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最近の記事

『○○は〜ない』系のタイトルに思うこと。

ラノベやアニメ、最近はドラマなどでも上遠野浩平著『ブギーポップは笑わない』の表題をオシャレだと思ってパクっている作品がある。タイトルだけでもかっこいいものにしたいという姿勢自体に対して思うことはないのだが、表題が内容を表していない作品が多いように思う。 『ブギーポップは笑わない』において、ブギーポップは合理的に表出する機能であると描かれ、合理的であること=笑わないという意味を表題に隠している。 20世紀フランスの哲学者ベルクソンの『笑い』では、人間特有の笑うという行為はお

    • 自然災害と不可分の死について/すずめの戸締り

      『すずめの戸締り』のタイトルに主人公である鈴芽の名前が入っているのは、亡くなった母の喪失感をどのように乗り越えるのかという鈴芽の個人的な物語であるからだ。そして、タイトルにある”すずめ”との表記は、物語を進行させている鈴芽を指しているのか、あるいは母を失ったばかりの幼少期の鈴芽を指しているのかを曖昧にさせるため、あえてひらがな表記しているのだろう。それは物語の構成から読み取ることができ、常世に入ってしまった幼少期の鈴芽は、結果として、物語を進行させている現在の鈴芽から母の形見

      • 辻仁成『白仏』読みました。

        隼人が亡くなったと聞いた鐡造は隼人が通っていた遊郭で女を抱いたが、稔は抱けなかった。ここでは、遊女を抱くことで隼人の死を受け入れることになるはずだが、それが出来ない稔は死と向き合うのを恐れたのだろう。また、初恋相手の緒永久の幻想を忘れられないのも死を受け入れられずにいることを表している。 そう考えると、骨仏の建立に至ったのは死を受け入れることが出来たからだが、それは隠し持っていた銃を捨てることで表現されていた。銃は殺人のための武器であり、また自分の身を守る道具でもあること

        • 藤本タツキ『ルックバック』と分身の正体

          藤本タツキ先生の『ルックバック』が映画化決定しましたね。本作はチェンソーマン第一部完結の後に掲載された作品で、チェンソーマンを経た著者の決意が描かれています。 というのは、本作の主人公にあたる藤野と京本は、著者である藤本タツキ先生の苗字からそれぞれ"藤"と"本"が与えられており、どちらもが著者の分身といえる存在です。 藤野は自身の画力に自信満々な女の子でしたが、京本の努力を目の当たりにして打ちのめされます。しかし、それをバネにして京本とともに漫画家を目指すようになります。

        『○○は〜ない』系のタイトルに思うこと。

          ブルーアーカイブとマジックリアリズム

          ブルーアーカイブが3周年を迎えましたね。 巷では、一時は低迷していたブルアカを救ったのはバニーとエデン条約編だなんて言われていますが、実際、バニーはめちゃくちゃエロいし、エデン条約編はめちゃくちゃ面白いです。 今回は、メインストーリー3章にあたるエデン条約編におけるブルアカ世界の謎について、物語の方法論の側面から考察したいと思います。 ※以下、ネタバレ含みます。 マジックリアリズムとは ブルアカでは、いくつか説明されていない謎が残っています。七つの嘆きやジェリコの古

          ブルーアーカイブとマジックリアリズム

          綿矢りさ『ひらいて』からみる家族のカタチ

          綿矢りさ著『ひらいて』を読みました。 一人の女性が失恋に至るまでの流れを綺麗に書かれている作品です。 特に印象深いのは、タイトルにもなっている通り、思い人のことを考えながら作ってしまった折り紙の鶴を、”ひらいて”、ただの紙に戻す場面です。 その鶴は、主人公である木村愛が思いを寄せている人物”たとえ”のことを思うあまりに折り紙で作ったもので、その数量はたとえに対する思いの数だけ増えていきます。 そのため、本作において、その鶴は恋の象徴としての役割を担います。 その鶴をひらく

          綿矢りさ『ひらいて』からみる家族のカタチ

          『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』における語りの妙

          私がオタクくんになったきっかけである作品『俺妹』は、ライトノベルだからと侮ることのできないほど、"何を語るか"だけでなく"どう語るか"が意識されている作品です。そのため、今更ではありますが、ライトノベルの中ではトップクラスに意識された、本作の語りについて考察したいと思います。 一人称視点の語り 本作は、主人公である京介が読者に向けて語りかけるようにして始まります。京介は、読者をまるで友達と話すかのように、妹との関わりについて説明し、こんなことがあったんだよと文句混じりに語

          『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』における語りの妙

          『メイドインアビス』と異界

          メイドインアビスの2期列日の黄金郷はちゃめちゃに面白いですね。これのためだけにアマプラに加入する価値あるまであります。 2期は特に”母親”が一つのキーとなる話ですね。そもそもリコは母親探しを目標としてアビスに潜っている面もあるので、当然と言えば当然の展開でしょう。そして、主人公たるリコの出身がアビスであるということも併せて考えたとき、アビスという大穴は母親の子宮の比喩なのではないかと推測できます。そう考えると、2期に限らずにメイドインアビスという作品全体には母親の存在が通底

          『メイドインアビス』と異界

          『推し、燃ゆ』読みました。

          宇佐見りん作の『推し、燃ゆ』読みました。 作者の宇佐見りんさんは現在23歳と筆者と同い年でありまして、私が無為に日々を過ごす一方で、芥川賞を受賞されるというまさに推しとの距離くらい離れた実績でとても感心します。 本作の主人公はアイドルの追っかけをしている女子高生です。 たしか大塚英志の『ストーリーメーカー』とかだったと思いますが、物語の推進力は主人公の欠落にあると聞いたことがあります。推しがいる人は自身の欠落を埋めるための行為として、アイドルを推しているのかもしれません。

          『推し、燃ゆ』読みました。

          『タコピーの原罪』からみる母の消失

          1.初めに はじめまして。Kusaleといいます。 初投稿です。 『タコピーの原罪』面白かったです。 漫画はあまり熱心に読むタイプではありませんが、ジャンプ+で電子上で読んだうえに紙の単行本も上下ともに買いました。 ネット上でも評判になってから少し経ちましたが、やはり良い作品ですので自分なりの解釈を誰かと共有したく、今更ながら筆を執りました。 小説感想ブログの初投稿が漫画て、、、 2.主人公の家族たち 『タコピーの原罪』にはメインとなる登場人物が3人と1匹います。

          『タコピーの原罪』からみる母の消失