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仏像物語  (3)

橋のたもとのお地蔵さんは

念仏橋と呼ばれる小さな橋のたもとに
小さなお地蔵さんが立っていました。

なぜ念仏橋と呼ばれるのか、
いつ頃からお地蔵さんが立っていらっしゃるのか、
語られることもありませんでした。

お地蔵さんは小さな子どもぐらいの背丈で、
ときどき鳥が肩にとまっていました。

誰がお世話しているのか、
いつも赤い頭巾をかぶり、
赤いよだれかけをしていました。



この辺りは元は沼だったので、
雨が降ると橋の上まで水があふれ、
バスも走れなくなります。

でもお地蔵さんは流されることなく、ほとんど崩れた土手の上に立っていました。


春の始め、この辺りが大工事をされることになりました。
水があふれないようにするためです。

たくさんのトラックがやってきて、
たくさんの金網が張られ、
たくさんの作業着の人たちが集まってきました。

バスの窓からはお地蔵さんの姿は見えません。
見えるのは、
工事現場のトラックや恐竜のような機械だけです。

バスの中で小さな声が……。
「あのお地蔵さんは江戸時代に作られたそうよ」
「苔むしていたもんね」
「戦争中は機関銃でガンガン打たれて、傷だらけだってよ」
「念仏橋も江戸時代に作られたのが」
「壊れるたびに作り替えられたって」
「お地蔵さんはどこに行ったのだろう」

実は……
近くの古民家資料館の中にいらっしゃったのです。

工事の人達が大切に運んでいったということです。

                      おわり



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