見出し画像

わたし、結婚したい和食屋さんがあるの。

好きな男性のタイプは?と聞かれると「クッキングパパ」と答える。

見た目が好きというわけでも、料理の腕前に惹かれるわけでもない。
わたしはクッキングパパの性格がタイプだ。


 
漫画「クッキングパパ」の主人公、荒岩一味(あらいわかずみ)は、私が読んでいた平成初期は、商社の主任さんだった。
新聞社勤めでバリバリ働く妻の虹子さんと、息子のまこと、娘のみゆきの4人家族。


 
「ごめーん、今日も遅くなった」と帰ってくる妻に、「大変だったな、疲れただろ」と労いの一言。
 
クッキングパパは、自分も仕事で疲れて帰ってきて、子供のお迎え、ご飯やお風呂の支度をこなしても、褒められたいなどとは思っていないし、見返りを求めない。

どちらかというと、照れ屋で自分の努力を人にみせたくないタイプだ。
 
「自分はこれだけのことをやりました」と功績をひけらかすようなことは絶対にしない。
ただひたむきに美味しいご飯を作っている。



口数の少ないクッキングパパの、妻に向けた「大変だったな、疲れただろ」という一言。

仕事が大変な時は家のことは気にするな、俺に任せたらいい。
頑張る君を応援しているから。
でも無理はするなよ。


というクッキングパパの気遣いと頼もしさが、短い言葉に詰まっている。
 


とてもカッコイイ。


 
クッキングパパみたいな人と結婚したい。
 
 
 
 
 
 
 
 
昼休みにたまに訪れるお気に入りの和食屋さんがある。

うちの会社はランチ競合エリアであるが、同じ会社の「顔と名前は知ってて挨拶はするけど特に話すこともない人」とうっかり同じ店で遭遇しないために、少し離れたエリアまで歩いて行った時にたまたま見つけたお店だ。
 
夜は飲み屋さんだが、サラリーマン向けにランチ営業もしている。
カウンター9席と4人がけのテーブルが6つほどの狭いお店。

日替わりのお魚の定食、お肉の定食などがあるが、わたしは8割方頼むメニューが決まっている。
 


鯖寿司と麺のセット。
 
大ぶりの鯖寿司が3切れに、日替わりの麺。
鶏天おろしうどん、肉とろろ蕎麦、豚しゃぶ胡麻だれサラダ風冷やしうどん、甘辛牛肉とパリパリ揚げゴボウの蕎麦など、粋でバラエティ豊かなメニューばかりだ。
 
どれを食べても本当に丁寧に作られており、料理人の繊細なこだわりを感じるお店だ。
 
 
 
ある日、いつも通り鯖寿司と麺のセットを食べに行った。
お店の軒先に手書きで書かれた本日の日替わり麺はきつねうどんだった。

きつねうどんか…。
 
いや、きつねうどんのことをハズレだと思ってしまうほど、普段のクオリティが高すぎるのだ。
そもそも、わたしは大人になって以降、一番好きな食べ物は鯖だ。
分厚い身の鯖寿司を食べに来ている。


 
今日も鯖寿司と麺のセットを頼んだ。
 
ランチタイム営業に相応しい手際の良さで、目の前に運ばれた。
鯖寿司3切れ。
横の丼鉢にはうどんの上に大きなお揚げさん。
 ・・・だけではなく、甘辛く炊かれた牛肉が乗っていた。
 
ただのきつねうどんではなかった。
きつねうどんであり、肉うどんでもあった。
 
 
 
このお店はクッキングパパ。
 
 
 
おまけというには失礼なほどにしっかりと牛肉が乗ったうどんのことを、このお店はきつねうどんと呼ぶ。

「牛肉入れといたったで」なんて功績をひけらかすようなことはしない。


とてもカッコイイ。


 
わたしはこのお店と結婚したい。









「日替わりのお魚の定食、キスの天麩羅が切れてしまって、代わりにアジフライになりますがよろしいですか?ごめんなさいね。」
というホール担当の女性店員の声が聞こえた。



アジフライも最高やないかい。
なんというダブルスタンバイ。



このお店はクッキングパパ。



田中将大の後ろに大谷翔平を布陣しながらも、それをひけらかすようなことをしない。

謙虚に品切れを詫びている。



とてもカッコイイ。



わたしの目の前で、紺色の作務衣風の制服に身を包んだ料理人が、手際良くアジフライを揚げている。

少し目線を上にやれば顔を見ることもできるが、料理人がイケメンかどうかを確認するだなんて野暮な話。



だって、わたしはこのお店と結婚したい。







今日の鯖寿司も美味しかった。
お会計に席を立とうとすると、目の前の料理人が「お席、すみませんでした」と一言。

その日わたしは、入店してすぐ、カウンター席を一つ隣に移動していたからだ。

ランチタイムではよくある話だが、あとから入店した2人組が横並びで座るために、席の移動を女性店員から打診されたため、一つ隣にずれた。

もちろんその時店員さんは「ごめんなさいね。ありがとうございます。」と親しくも丁寧に謝ってくれていた。



このお店はクッキングパパ。



口数の少ない料理人が、さりげなく帰り際に言った「お席、すみませんでした」という一言。

あなたの気遣いに感謝します。
気持ちよく帰っていただけたらいいな。
午後からのお仕事も応援しています。

というこのお店の慎ましやかさと優しさが、短い言葉に詰まっている。



とてもカッコイイ。



わたしはこのお店と結婚したい。

 
 
 



 
わたし、結婚したい和食屋さんがあるの。
 





 
 
だから、クッキングパパが好きだと言った途端、その真意を確かめることなく、シャクレ顔の人やゴリラ顔の人を紹介してくるのはやめてください。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、次回の #クセスゴエッセイ は

「ドトールのもえちゃん」

をお届けします

お楽しみに〜
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

この記事が参加している募集

おいしいお店

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?