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プロジェクトの計画(Planning)

2025大阪・関西万博の準備状況はあまり芳しくないようです。外国パビリオンの準備が順調に進んでいないといわれています。2020東京オリンピック組織委員会の運営もあまり誇れるようなものではありませんでした。リニア中央新幹線の開業は2027年から2037年以降への延期が発表されました。プロジェクトの工程や費用問題が表面化するのは、行程が伸びるとか予算が膨らむと言った情報が流れた時です。一般には「またか」という感じで受け取られています。
プロジェクトの工程が伸びたり費用が膨らんだりするのは、プロジェクト運営組織のマネジメント手法に課題があるからです。運営組織のプロジェクトマネジメントが拙いので、当初の計画通りにプロジェクトが進行しないのです。プロジェクトに必要なモノつくりはできるのですが、プロジェクトマネジメントはできていません。どのプロジェクトも大なり小なり問題が発生するものですが、原因はプロジェクト執行中のマネジメントばかりではなく、理詰めでつくられていない計画にもあります。
 一人や少人数で行う毎日の業務のような小さな仕事には、始まりがあって終わりがあります。組織を立ち上げて執行する大きな事業も始まりがあって終わりがあります。始まりがあって終わりがある仕事は、すべてプロジェクトといえます。プロジェクトは計画を立てるところから始まり、実施は計画に基づいて行い、必要に応じて計画の変更をします。プロジェクトの運営組織は完了までの実績を記録して、自らの運営を検証し報告書にまとめて公表します。運営組織が報告書を公表してプロジェクトは終了します。
運営組織は報告書を作成しますが、第三者がプロジェクト記録を詳細に検証し公表することはあまりありません。第三者がプロジェクトの組織や運営について検証をし、次のプロジェクトのために運営手法を改めたり改善したりして生かしたという話もあまり聞きません。同じ様な間違いを繰り返しても、のど元過ぎれば熱さを忘れるのでしょうか「終わってしまえばおしまい」ということが許されているからです。
小さなプロジェクトは、始めから終わりまでを頭の中で考えながら進めることができます。大きなプロジェクトは組織を立ち上げて、プロジェクトの初めから終わりまでを計画に沿って運営しなければいけません。プロジェクトマネジメントは組織でプロジェクトを運営する手法で、プロジェクトの計画作成から始まります。
計画を立てる時に最初にすることは、プロジェクトの内容を説明し必要性や目的を明らかにするナラティブを書くことです。プロジェクトの場所をナラティブに明示することは当然ですが、プロジェクトの背景をどのように認識しているかは重要なので、企画する意図を説明することが求められます。立案に必要な仮定条件は客観的に設定し、我田引水的な仮定の設定は厳に慎まなくてはいけません。
次に、目的を達成するための目標を設定します。たとえば、オリンピックでは獲得するメダルの数は目標になりますし、万博では観客動員数は一つの目標になります。鉄道や道路のプロジェクトでは一般への開通日が目標になります。
プロジェクトの種類によりいろいろな目標設定ができますが、行程や費用を検討するときに、目標を変える必要が出てくるときがあります。立てた目標が独り歩きして、いまさら目標変更はできないという硬直的な対応をしてはいけません。当初の目標の設定理由を明らかにして、目標変更の理由は理詰めで説明する必要があります。
目標を設定したら目標達成への道筋を議論して手段を選定します。道筋は複数ありますから、多くの道筋の中から特定の道を選んだ理由を明確にすることが大切です。道筋が設定できたら、設定した道筋を適切に進む方法を議論して最適解を選択します。道筋を進む手段に懸念があるときは、違う道筋の検討が必要になります。
プロジェクトの方法が決まったら、開始から完了までに必要な期間を計算します。作業条件の設定によって期間算定の結果が大きく変わりますから、算定条件の設定は裏付けとなる理由説明を必ず記録して残します。行程の算定結果が当初想定と大きく違う時は、設定条件の変更が必要になりますから、設定条件のどこをどう直すかを明らかにする必要があります。
プロジェクトの期間を算定したら、プロジェクトのチームメンバーの選定と費用の算定を行います。費用の算定は決定した実施方法と工程を基本とし、計算して積み上げます。
第三者が検証できるようにプロジェクト計画を作成するのは、プロジェクトの詳細は基本的に公表する義務があるからです。プロジェクト計画の目標と方法と行程と費用は、実施中のプロジェクトマネジメントのツールの一つとして、進捗状況を確認するときの「ものさし」となります。
プロジェクトの開始後は、プロジェクト計画と進捗状況を比較して定期的に公表することが求められます。計画と現況が大きく乖離してきたときは、計画を変更する必要が出てきます。計画を変更するときは変更理由を明らかにして、何をどのように変更するのかを説明しなければなりません。
プロジェクトチームはプロジェクト進行中の出来事を記録し、計画と現状との状況を比較して定期的に報告書を公表します。プロジェクトの運営責任者は報告書に基づいて、各部門の責任者を招集して会議を開催します。会議では記録に基づいて進行状況を確認し、計画変更の必要性を議論します。運営責任者は計画通りに実行し続けるのか、計画変更するのかを決定します。議事録は必ず残しておき、第三者が運営の合理性と決定の正当性を検証できるようにしておくことは、プロジェクトマネジメントの最低限の要件です。
情報公開はプロジェクトマネジメントの基本ですから「民はこれを由らしむべく、これを知らしむべからず」では運営の信頼は得られません。プロジェクトマネジメントはハードとソフトの技術をシンクロさせる組織運営の技術です。プロジェクトマネジメントは、伝統的な「力」による運営にはありません。モノつくりのハードの技術が一流でも組織を運営するソフトの技術が三流のままでは、日本の後れは取り戻せないのです。

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