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次期戦闘機プロジェクト(Next Generation Fighter Project)

 イギリスとイタリアと日本の3国で次期戦闘機を共同開発することが発表されました。開発計画を管理運営する政府間の機関としてGIGO(GCAP, Global Combat Air Programme, International Government Organisation)の設立が合意されたのです。
国際機関であるGIGOの本部はイギリスに置いて、組織は運営委員会と実施機関で構成されています。運営委員会には参加国の政府代表が参加します。実施機関は運営委員会のもとでプロジェクトを運営する行政部門といわれており、製作業務は3か国の共同事業体制で執行されるそうです。3か国の共同企業体が行政部門と契約して、共同事業体が各国の製造業者と契約し次期戦闘機を製作します。
行政部門は3か国から数百人規模のスタッフを集めて、新しい組織を立ち上げます。業務は計画の管理や予算の策定と輸出管理などを行いますから、行政部門というよりもプロジェクトマネジメント組織と考えられます。
プロジェクトマネジメント組織の主席行政官に求められる資質が、相当に高いものであることは想像に難くありません。組織の運営において相当の能力と経験が必要な理由は、ヨーロッパ型と日本型では運営手法が大きく違うからです。イギリスとイタリアのスタッフと日本のスタッフをまとめるのは相当の努力が必要となります。
行政部門の主席行政官は日本人で共同事業体のプロジェクトダイレクターはイタリア人です。主席行政官とプロジェクトダイレクターの名前は公表されていません。どちらのポジションも国際プロジェクトの豊かなマネジメント経験が求められることに変わりはありません。
プロジェクトマネジメントは、ハードとソフトの技術をシンクロさせる運営です。いくらモノつくりのハードの技術が優れていても組織を運営するソフトの技術が稚拙ならば、プロジェクトの成功は望むべくもありません。プロジェクトの成否はマネジメントの質によって決まってくるからです。
実施機関としての行政部門と共同事業体の詳細にはわからないところもあります。実施機関の運営は、行政部門と共同事業体で別々の指示・報告が飛び交う複線ラインになることは避けなければなりません。実施機関はプロジェクト執行に責任を持つ組織ですから、共同事業体の業務は各国のラインに任せるとしても、一本の指示・報告ラインによるプロジェクトマネジメントが望まれます。
国際的な組織の運営は、業務説明(Job Description)で各ポストの義務と責任を明確に決めておくことが基本になっています。各ポストの立ち位置が明確なので、組織内の作業手順(Procedures)も1から10まで明快になっています。
組織内のルールを確立しても、組織の運営に問題がなくなるわけではありません。国際型の組織に参加するスタッフは、蛸壺のタコになる欠点があるからです。一人ひとりの属性は違っていてもポストの義務と責任が明確なので、スタッフは自分の守備範囲の業務については責任を持って行います。
しかし、彼らは往々にして自分の職務外の分野に関心を示さないことがあるのです。縦割り行政は非難の対象となりますが、国際型の組織では縦割りというよりも個人割り、つまり蛸壺型になりやすいのです。蛸壺型の組織を効果的に運営するためには、蛸壺内にいるタコに横櫛を通して、縦横を網羅するマトリックス型の組織運営を心掛けなくてはいけません。
 組織運営はすべてのスタッフは属性に関わらず平等、公平、公正でなければならないという原則を基本方針に置いて実践することです。ポストによってスタッフの立場は違いますが、スタッフは誰もがプロジェクトの一員として対等に参加しているという認識が必要なのです。責任者はスタッフ個々のポストを考慮したうえで、指示を出し対等に話(交渉)し報告を受けるフェアな運営が不可欠です。
次期戦闘機プロジェクトに、日本が3か国共同事業の一員として参加するようになったということは、関係者のみなさんが長年にわたって多大な努力と交渉をされてきたからだと思います。ヨーロッパの2か国と日本が対等の交渉をしてきた結果として、共同開発事業が開始すると思うと、明治時代に先進国と対等の交渉をめざした先人の苦労に感謝しないわけにはいきません。
次期戦闘機プロジェクトは組織運営の技術を勉強するいい機会です。すべての参加者は対等という原則に基づいた普遍的なプロジェクトマネジメントの手法を日本に根付かせてかせてもらいたいものです。

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