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『営業はいらない』 銀行員版を考える

積読の中から『営業はいらない』(三戸政和さん著)を読みました。いろいろな想いが刺激される本でしたが、その中から「銀行員ってどうかな?」というのをメモ。

最後までお読みいただけると得られそうな情報は?
✔︎ 『営業はいらない』の概要(本当に概要)
✔︎ データ等で見る銀行の置かれた状況
✔︎ 銀行員(のうち営業担当)はどこに向かうのか?

1、『営業はいらない』の概要

株式会社 日本創生投資 代表取締役 三戸政和さんが書かれた本。『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』を書かれた方です。

概要は章立てを見ていただくのが一番いいかな、と思いますので、以下。

第1章 サラリーマンの不幸の根底には「営業」がある
第2章 世界はもう「営業不要」で成功しはじめている
第3章 テクノロジーが営業を殺す
第4章 営業マンはどこに向かうのか
第5章 営業マンを自由にする「小商い」のすすめ

第1章では、話題になった郵便局の「簡保商品の不正販売」問題から、「ノルマ」を課すような従来型のビジネスモデルしか描けない経営というのが問題であること、しかももうそれで通用した時代は過去のものになりつつあること、などが書かれています。

第2章では、すでに営業マンは減少傾向にあること、EVメーカーのテスラの例では高額商品である車でさえも、営業マンもディーラーでさえも不要なビジネスモデルで十分に成功していること、バルミューダの例では真のニーズを掘り起こせば営業マンも広告宣伝でさえも不要なビジネスモデルで成功していること、などが書かれています。

第3章では、「セールステック」が営業マンが必要と考えられていた分野にも十分に対応できる進化を遂げていることをMR(医薬情報担当者)がWebのサービスである「m3.com」に置き換わりつつあること、米国ではMA(マーケティングオートメーション)、SFA(セールスフォースオートメーション)、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)と呼ばれる3つの最先端セールステックツールに営業は置き換わりつつあること、などが書かれています。

第4章では、そんな環境下で営業マンはどうしたら良いのか、として、営業マンは経営者に向いているのですでに古くなってしまったビジネスモデル下でノルマを課されるぐらいなら自分で経営者になることを勧め、その例が書かれています。

第5章では、仮に経営者になるとして、会社を成長させるのではなく、手の届く範囲でストレスのない「小商い」を勧める理由、などが書かれています。

いかがでしょう?2、3時間でサラリと読めるのでご興味があれば。

2、銀行員版『営業はいらない』

本書第2章冒頭に、「100万人の営業マンが消えた」と題して、

営業マン受難の時代を証明するかのように、この20年の間、営業マンの数は2001年の968万人から、2018年にはついに854万人にまで減少した。これはピーク時に比べて、約100万人の営業マンが消滅したことを意味している。

と記載がありました。

これを、銀行員で見てみると(銀行員のうち営業担当者がどれくらいかは調べられなかったので)銀行協会が発表している所属銀行の従業員数で見てみると、

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ほぼ同じ期間で35.3万人から28.6万人へ6.7万人減少しています。減少率でみると先ほどの営業マンの減少率が11.8%ですから、18.9%減というのがかなり大きいことが分かります。

もちろんこれは銀行の従業員数ですので必ずも営業担当だけではありませんが、こと営業マンが、というより業界として厳しくなっているとも言えます。

この背景は当然儲からなくなっている、というのが一番なのですが、銀行のビジネスモデルである「預金を集めて企業に貸し出す。企業に貸し出す金利と預金を集める金利の差で稼ぐ」を見てみると、

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「貸出金利回り」というのが企業などに貸し出している金利(銀行にしてみると受け取る金利ですね)、「預金債券等原価」というのは預金などで集めてくる金利(銀行にしてみると支払う金利になります)、で、その差が粗利になるわけですが、それが「預貸金利鞘」です。0.58%から0.20%へ、ざっくり3分の1になっているわけです。

では、薄利多売で利益の絶対額を維持できるか、というと借りてくれないとどうしようもないわけで、2000年度末の474.5兆円から2019年度末の842.8兆円に頑張って増やしていますが、1.8倍弱の伸びになっています。
(そもそも貸しても返してもらわないと損失になりますから増やせばいいわけでもないのですが)

3、銀行にビジネスモデルはなく、あるのは人材だけ。

さぁ、となるとどうでしょう?実は銀行のビジネスモデルというのは先ほど申し上げた「預金で集めて企業に貸してその差で儲ける」という以外に、重要な隠れたビジネスモデルがあった(ある)と私は考えています。

それは、優秀な人材を新卒で大量に採用し、その能力に頼って古いビジネスモデルでなんとかする、というものです(あくまで個人の見解です)。

それが証拠に銀行で新しいビジネスは規制緩和で取扱商品が増えた以外にはありません。規制業種で工夫の余地が乏しいというのは確かにあります。でも逆にいうと、規制があるがために、新規事業への参入タイミングは業界一律(例えば投資信託の販売ができるようになる、というのは業界で一律です)ですし、横を眺めていれば大体どうすればいいか判断はつきます。

かなり創造性が乏しいのです。というかあまりいらない。

メガバンクになると海外事業がありますし、付き合っているのも日本を代表する企業でグローバルで活躍しているので勢い海外の金融勢と戦わないといけなく、力もつけざるを得ません。

ただ、それ以外の多くの銀行は海外事業といっても、メガバンクが組成した融資に少し噛ませてもらうぐらいです(メガバンクは融資リスクの分散と組成の手数料というメリットがあります)。

こういった状況を反映して、優秀な人材を集めるのに苦労が始まっています。

2011年卒の就職人気ランキング(文系)では、トップ10に2つも銀行が入っていました(5位三菱東京UFJ銀行、8位三井住友銀行)

ところが、2021年卒ではトップ10には一つもなく、21位に三菱UFJ銀行、35位に三井住友銀行となっています。

4、で、どうなる?

本来、金融はネットと親和性が高いものです。物理的なものがない商品ですから、ネットで取引を完結することができる。ところが、あまりにもこれまでの正確を旨とする事務管理が重く(これはこれでお金を扱うから緩くすると横領などの事故が多発し、信用問題になるから仕方がなかったのですが)、これまでに勘定系システムなどに莫大な投資をしており、それと繋げることを考えると軽い仕組みは作りづらく、そうこうしているうちに、何のしがらみもない新興のフィンテック企業に決済や小口融資という分野で侵食を受けているのです。

これは、大きな戦艦が急に向きを変えられないのと一緒でなかなか難しいところです。

でも、コロナであらゆることが加速度を増している中で、銀行だけがそのペースが緩く済む訳ではありません。

『営業はいらない』の第3章で、

アメリカではかなり精密に営業プロセスの管理がなされている。ターゲットリストの作成、電話やメール、アポイント、提案、交渉、受注というプロセスに分け、それぞれのプロセスごとに対応するスタッフが代わる。

という記述がありました。これが営業をシステム化する前提になります。日本の銀行は人材に頼ってきた分、このシステム化ができていないところがほとんどです。他の日本企業でもそうかもしれませんが、私がいくつかの業界を見た中でも最も進んでいないのが銀行業界です。

今のままいわゆるセールステックを導入してもおそらくうまく行かないと考えます。その前に、今の営業を支店長などのレベルのマネジメントクラスがきちんと営業をプロセス化することができれば、(セールステックを導入せずとも)それだけでもかなりの生産性向上になると思います。

その上で導入すれば、その顧客ベースから金融や相続、事業承継等のニーズは豊富にあるはずで、それを効率よく、満足度高く提供することが可能になると考ています。

「営業はいらない」、どころか、「銀行はいらない」、にならないよう、今はまだたくさんいる優秀な人材に適したビジネスモデルを経営陣が構築できるかが勝負と勝手に思って陰ながら応援しております。


最後までお読みいただきありがとうございました。
お読みいただいた時間の分だけでも参考になることがあれば嬉しいです。

なお、銀行員の(リテール営業担当の)方でしたら、営業に関して投稿したものがございますのでご興味ありましたらぜひご覧ください。

また、本文中のデータは以下からのものになります。



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