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【現代空間論5】公文俊平「情報空間」

情報社会学者・公文俊平は、SNSをはじめとした「情報空間」は、我々の一般的な常識とは少し異なり、個人と世界が反転した空間特性を持っていると述べています。

「物理空間」に占める個人を考えると、国や世界に比べると一点にすぎないほど小さなもののようですが、「情報空間」ではこの関係が逆転し、世界の方が微少なものになるといいます。

情報空間

私たちは普段、自分を取り巻く空間を、固定相的な空間と捉えています。もちろん空間感覚に個人差はありますが、他の多くの人々とその一つの空間を共有していると感じています。そのため空間の占有に関して競合が起こり、場合によっては動物のようにテリトリーが生じることもあります。また、個人は空間の一部を占める存在にすぎず、小さな個人が大きな世界のなかに呑み込まれていると感じています。これが一般的な空間感覚です。

これに関連して、公文俊平は『文明の進化と情報化』で、デジタル空間は、個人から見ると個人と世界が反転した空間特性を持っていると述べています。

公文は、「情報空間」の特徴を「物理空間」と対比して整理しています。特定の個人が物理空間(図左図)に占める位置は、国や世界に比べると一点にすぎないほど微少です。一方、情報空間(図右図)では、この関係が逆転し、国や世界の方が一点にすぎない微少なものになります。

情報空間の全体を、
 「個人だけが持っていて他の誰にも開示しない情報」
→「家族や職場の仲間に開示してもよいと考えている情報」
→「地域や国や世界に開示してもよいと考えている情報」

と段階的に区分した場合、情報空間では「世界に対して開示してもよいと考えている情報」が全体情報のごく一部にすぎず、物理空間と正反対の空間構成を示しています。情報空間では、家族や職場は身近にあり、世界は限りなく遠くにあります。

内からの情報化

公文は、情報化の進展によって、個人の情報空間が大きく拡張していくといいます。図右図の円全体が、矢印に示したように外に向かって拡大し始めるということです。

情報空間が拡張するということは当然、その効果が情報空間全域に及びます。全国や全世界に開示しようと思う情報部分の拡大に比べると、個人だけが持つ情報部分が圧倒的に大きな影響を受けることになります。情報化は、身近であればあるほど影響が大きくなります。確かに、情報空間で個人が行う情報活動の大半は、SNSをはじめ身近なコミュニケーションに占められており、全国や全世界を相手にした情報発信やコミュニケーションの割合は微々たるものです。

マスコミが多くの読者や視聴者を抱えるといっても情報量は対象者数 n×a(1件あたりの情報量)にすぎません。一方、SNSの情報量は参加者内のグループ構築可能数として表される 2n×a であり、1件あたりの情報量に大きな違いがあるとしても、SNSが圧倒的な情報量を持つことを説明できます。

そして公文は、「仮に最初の動機が『世界に対する情報発信』にあったとしても、それを真に効果的に実現していこうと思えば、自分の情報空間全体の拡大、つまり自分自身の知的エンパワーメントに努めなければならない」といい、このような情報化のあり方を「内からの情報化」と呼んでいます。

情報管理は人間単位か、情報単位か

公文が当時(2001年)示した情報空間の空間グラデーション、つまり個人を起点として最も遠い世界までの段階的な情報区分は、SNSなどのアクセス・コントロールとして現実化しています。

アクセス・コントロールが進めるのは、情報自体が持つ内容や、相手と自分の状況などによって、たとえばこの情報は部内限りに、その情報は全員にという具合に、その都度、アクセス範囲を定める方法です。ここでの情報管理は人間単位でなく、情報単位に行われます。情報空間の大半を占める個人や身近な情報は、ほとんどが情報単位のコントロール方法が採られており、この間、情報管理のあり方が転換したことがわかります。

また、情報化による「情報空間」の拡張は、情報管理方法だけでなく、デジタル空間を生きる個人の関心も大きく変化させます。「局所性の法則」といわれるように、情報通有量をみれば、今も昔も、個人や身近な情報が大部分を占めることに変わりありませんが、関心の対象は明らかに個人や身近な情報やコミュニケーションに重心が移っています。マスコミが扱ってきたマス情報は関心を失いつつあることや、相互理解が難しい島宇宙と呼ばれる小集団化は、これを端的に現しているといえます。

書きおえて

空間論には、人間を取り巻く「外なる空間」を語るものと、人間の「内なる空間」を語るものがあります。公文は、物理空間を「外なる空間」、情報空間を「内なる空間」と明快に整理しました。
物理空間と情報空間が並行する新たな世界を生きねばならない我々は、無意識にこの二つの空間を使い分けているようです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(丸田一如)

〈参考〉
公文俊平『文明の進化と情報化』NTT出版