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落語日記 大変な時期をやっと乗り越えて来た演芸界

第30回 馬治丹精会
1月15日 日本橋社会教育会館
裏方のお手伝いをさせてもらっている金原亭馬治師匠主催の独演会。気が付けば、この日が第30回という節目の回となっていた。
二ツ目時代に続けていた勉強会である馬治育英会を、真打昇進してから会場やコンセプトを変えて、馬治丹精会と名称も改めて始めた独演会。コロナ禍で休止していた時期もあったが、今日まで継続してこられた。
この日も裏方仕事で、高座はときどき通路から眺めることしかできなかったので、高座の感想は無し。第30回という節目の回の記録として、この会の過去の経緯を少しここに書き留めておく。

馬治師匠は、2015(平成27)年3月21日に同期10人と同時に真打昇進された。真打昇進の披露目の行事を終えたあとすぐに、独演会の準備を始めた。真打に昇進したら大きな会場で定期的に開催する独演会を主催したいという目標に向かって動きだした。
馬治師匠が打ち出した新しい会のコンセプトは、馬治師匠が尊敬している先輩落語家をゲストに迎え、その胸を借りて大ネタに挑戦するというもの。
そして第1回が内幸町ホールで2015年10月9日に開催された。ゲストは馬治師匠の尊敬する橘家圓太郎師匠、ネタ出しの演目は品川心中の通しという構成。準備から手伝っていたので、第1回の開催は感慨深く記憶にも残っている。
あれから、8年が経過した。ということは、馬治師匠が真打昇進してから8年経ったことになる。振り返ると、長いようであっという間。
この間に、先輩をゲストに迎える構成から色物をゲストにして、馬治師匠自身の落語のみで勝負するスタイルに変更した。

エンタメの世界にも大きな影響を与えたのが、2020年から始まったコロナ禍。馬治丹精会にも、当然のように大きな影響を与えた。
2020年2月3日に第19回を開催したのち、感染状況が急激に悪化。本来は5月25日に第20回を開催する予定だったのが、4月7日には東京都に緊急事態宣言が発令され、延期となってしまった。
2020年は馬治師匠にとって、実は芸歴20周年となる節目の年。その記念すべき年に第20回の馬治丹精会を開催できるという、20が幾つも重なる偶然が演出する絶好の機会となるはずだった。馬治師匠は、この第20回を記念の回として、にぎにぎしく晴れやかな会にしたいと考えていたのだ。

この延期された第20回が開催できたのは2021年9月17日、当初の予定から1年7ヶ月のちのこと。この間も感染状況を見ながら逡巡を重ねて、慎重に判断しての開催だった。
開催を決めたときは感染拡大第5波の前、開催時も何度目かの緊急事態宣言下。まだまだ終息したとは言えない状況の中、ワクチン接種の普及や利用制限付きながら会場となる公共施設の使用も認められてきた状況になり、感染症対策をとったうえで開催することを馬治師匠は決断された。慎重派の馬治師匠が決断したのは、悔しさを晴らすという気持ちがあったとは思う。しかしそれ以上に、落語の力で世の中の暗い空気を吹き飛ばし、観客の皆さんを元気付けたいという馬治師匠の強い思いを感じたのだ。
幻のチラシにあったような「にぎにぎしく晴れやかな会」ではなく、ホームグランドである内幸町ホールよりも小規模な江戸東京博物館小ホールに会場を変更し、そのえうえで感染症対策のため会場の定員の半数という人数で予約を受け付けた。大々的な告知は控え、郵送による案内もギリギリまで待ってご常連さんにのみに発送した。それでも、再開を待ちわびていたご常連さんで予約はいっぱいになり、当日も満員御礼の大盛況となった。こんな状況の中でも来ていただいた常連の皆さんには、本当に感謝だ。

その後、第21回は翌年の1月に開催し、この日の第30回までコロナ禍と闘い続けたのだ。このコロナ禍であった後半の4年間は、エンタメ業界全体も冬の時代を過ごしてきた。この馬治丹精会の裏方として関わってきて、この時期の業界の皆さんの苦労を間近で見て身近に感じられた。
そうは言っても、エンタメを提供する側の悔しさや葛藤、悪疫に対する恐れなど、我々観る側の立場からは想像もつかない辛い思いがあったはず。この振り返り記録を書いていて、そんなことも思う。そして、これは馬治師匠のみならず、落語界、演芸界、ひいてはエンタメ業界に関わるすべての皆さんが同様な思いを背負って奮闘してこられたのだ。
再び演芸を楽しめる日常が戻ってきたことに感謝しつつ、これからも演芸を楽しんでいきたい。第30回という節目の回、それも特に特別な演出もせず平常と同様に開催。第20回を特別な回としてお祝いできなかったが、特別なことをしなくても平穏無事に第30回を迎えられたことの方が、よっぽど嬉しい。そんな感慨にふけった、第30回馬治丹精会だった。

番組

隅田川わたし「初天神」

柳家小菊 粋曲

金原亭馬治「天狗裁き」

仲入り

金原亭馬治「お直し」


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