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空海-密教のルーツとマンダラ

 その人物は故郷四国で山岳修行をした。そのために訪れた場所は今や「四国八十八カ所」と呼ばれる霊跡として残り、それら霊場を巡ることが幅広い大衆の信仰を集めるようになった。いわゆる「お遍路さん」だ。
 そう、その人物とは弘法大師・空海である。空海は、奈良仏教から平安仏教へと転換していく流れを引っ張るとともに、中国から日本に密教をもたらした。陸と海のシルクロードを経てインドから唐に伝えられた密教は唐で体系化され、空海はその全てを学び日本へ伝えた。
 その空海の生誕1250年を記念し、奈良国立博物館(奈良県奈良市登大路町50番地)では特別展「空海 KUKAIー密教のルーツとマンダラ世界」を2024年4月13日(土)から6月9日(日)まで開催する。国宝およそ30件、約60件の重要文化財を含め計110件が揃う。
 奈良国立博物館の井上洋一(いのうえ・よういち)館長は「かつてない空海展になると思います。空海の求めた曼荼羅世界を追って、各地で守られてきた曼荼羅空間とを奈良博会場に作り上げるつもりです」と胸を張った。
 「混沌とした世界情勢に不安を感じる今日ではありますが、本展を通じて多くの人々の救済を目指した空海の世界に入ることで、いろいろなことを考え直す機会になることを願っています」と井上館長は2023年10月2日(月)に読売新聞東京本社(大手町)で開かれた記者発表会で話した。

井上洋一奈良国立博物館長


 同展に学術協力をした高野山大学の松長潤慶(まつなが・じゅんけい)副学長は「二次元である曼荼羅。平面である曼荼羅。そうではなく、これは三次元のものなのだということを展示の中で表現していきたい」と述べた。
 松長副学長は続けた。「相手は空海。見えないものをどうするか。精神世界、それが曼荼羅世界なのです。それを感じてもらいたい」。

高野山大学の松長潤慶副学長


 今展では、空海(774-835)が日本にもたらした密教の全貌を解き明かす。また、密教の「マンダラ空間」を展示室に展開し、国宝・重要文化財を含む様々な作品により、空海と真言密教の魅力を紹介する。
 平安時代に淳和天皇の発願のもと空海が制作を指導した現存する最古の曼荼羅で、神護寺(京都市右京区)が所蔵する国宝《両界曼荼羅(高尾曼荼羅)》を修理後初めて公開する。「胎蔵界曼荼羅」と「金剛界曼荼羅」の2幅からなり、いずれも約4メートル四方の大きさを誇る。
 奈良国立博物館の斎木涼子(さいき・りょうこ)列品室長は今回の展覧会では2つ挑戦していることがあるという。「1つは曼荼羅を広い空間の中で体感してもらい、空海を感覚的に分かってもらいたいということ」だという。そのために、巨大な曼荼羅を掛けて、そこに仏像を配置するという。もう一つはインドネシア・ジャワ島で見つかったブロンズの小さな曼荼羅彫像群を立体的に並べて曼荼羅とする展示であると斎木室長は話した。

斎木涼子・奈良国立博物館列品室長

〇第1章「密教とはー空海の描いた世界」ー空海は「密教は奥深く文筆で表し尽くすことが難しい。そこで図や絵を使って悟らない者に開き示すのだ」と述べたという。密教世界の中心である大日如来とそれを取り囲む仏たち、胎蔵界・金剛界という2つのマンダラの世界を立体的な空間で展示する。
〇第2章「密教の源流―陸と海のシルクロード」ー密教は仏教発祥の地・インドで誕生した。その根本経典とされるのが「大日経」と「金剛頂経」。「大日経」は陸路を通って唐に入ったインド僧によって漢訳された。一方、「金剛頂経」は海路を通って唐に入ったインド出身者によってもたらされた。「玄奘三蔵で知られるのは陸のシルクロードです。しかし密教の場合、海上交易路が大きな役割を果たしています」と高野山大学の松長副学長。例として、インドネシアで発見された曼荼羅彫像群を挙げた。現地で奈良国立博物館の協力を得て修理が施され、日本初上陸する。
〇第3章「空海入唐と恵果との出会いー胎蔵界と金剛界の融合」ー空海は遣唐使の一員として唐に渡り、長安で密教の師、恵果阿闍梨(けいかあじゃり)と運命的な出会いを果たす。陸路で中国にもたらされた大日経と海から入った金剛頂経とを「融合させたのが空海の師である恵果だったのです。それが空海によって日本にもたらされました」と斎木室長は説明した。
〇第4章「空海の帰国 神護寺と東寺ー密教流布と護国」ー帰国した空海は、神護寺を拠点に密教の流布を行い、多くの僧侶たちが密教を学ぶようになる。また朝廷の信頼を得た空海は、平安京の東寺を任され、密教による護国の役割も期待されてゆく。

神護寺


〇第5章「金剛峯寺と弘法大師信仰」ー仏教界において重要な役割を果たすようになった空海だが、一方で自然の中で心静かに修行し、瞑想したいという望みを持ち続けていた。やがて、朝廷の許可を得て、理想の地において金剛峯寺の建立に着手する。

 休館日は毎週月曜日と2024年5月7日(火)。ただし、4月29日(月・祝)、5月6日(月・振替)は開館。開館時間は午前9時半から午後5時(入館は閉館の30分前まで)。
 観覧料(当日)は一般2000円、高大生1500円、中学生以下無料。前売りはそれぞれ1800円、1300円。前売り券の販売は2024年2月13日(火)から4月12日(金)まで。
 展覧会公式サイトはhttps://kukai1250.jp/

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