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奈緒ちゃんとお母さんの映画!

 生まれつき重いてんかんを患い、長くは生きられないとまで言われていた奈緒ちゃんを追いかけて半世紀。
 その奈緒ちゃんシリーズの5作目にして最新作「大好き~奈緒ちゃんとお母さんの50年~」の完成上映会が2024年4月27日(土)に日比谷図書文化館地下ホールにて開かれた。
 上映前に伊勢真一監督は「奈緒ちゃんシリーズの第5作「大好き」という映画の誕生会に立ち会っていただきありがとうございます。50年の記録ということで、それが1時間50分になって、本当は50年つきあってもらいたいんですが、そうはいかないかな」と話すと会場が沸いた。
 映画は昔の映像と今の奈緒ちゃんたちが交互に出てくる構成。主に伊勢監督のお姉さんで奈緒ちゃんのお母さん・西村信子さんが話をしているが、時々伊勢監督もナレーションを加えていた。

 お母さんの言葉の数々が心に響いてきた。
 「奈緒のところから、自分の気持ちが変わった。神様が奈緒を使わしてくれた。奈緒さんがたぶん私を変えた」。
 「ぴぐれっとという(障害者施設)をつくるというより仲間づくりのほうが大切だった」。
 「奈緒の存在は私にとってとても大きくてあの天真爛漫さがなくなっちゃうようなことはしちゃいけないって」。


 
 これはいわゆる障がい者映画と捉えるのは間違いではないかと思った。つまりこれは家族の間の心のキャッチボールつまりやり取りを描き記録している作品なのではないか。その中心にいるのがたまたま障がいを持つ奈緒ちゃんであってそのお母さんなのだ。
 2019年夏、相模原市の障がい者施設で19人が刺殺されるという事件が起こった。元職員が逮捕された。
 お母さんはその事件に触れて「障がいがある人を嫌いな人はいます。あの事件を起こした人が特別だとは思いません。そういう人たちをつくった社会が悪いんだと思うんです」。
 映画が進む中でアクセントとして出てくる水の音、桜、月、富士山など。水の音は「羊水」のことか、あるいは「海」?お母さんは言っていた「羊水検査で障がいがあると分かると生まない人もいる」と。

 映画が終わり、檀上に再び伊勢監督そしてお母さん信子さんが上がった。そしてトークショーがスタートした。
 お母さんは「初めて見まして今胸がいっぱいになってしまって、頭の中は真っ白になっているんです」。
 伊勢監督はお母さん・信子さんは長女だったが片親だったので親代わりになって自分のことや妹の面倒をみてくれたことを語った。
 「姉はアルバイトで20歳の頃ピアノを買って、それでピアノの先生をやって、結婚してからもピアノの先生をやって奈緒ちゃんを育てるおカネを稼いでいったんです。もともと音楽好きだというのはあったけど、ピアノというのは大きな存在だったと思います」と伊勢監督。
 映画の中でもお母さんが「愛の讃歌」などを弾く姿が映し出された。
 そしてテーマ曲もピアノの「326」(ロケット・マツ)だった。

 お母さんは奈緒ちゃんを生んだ後病気についての詳しい説明を受けていなかったが、かえってそれがよかったという。
 この病気だと「2割の人は突然死。寿命は35歳だというけれど、最初に知っていたら怖くて育てられなかった。奈緒の育て方も変わっただろう。私は知らなくてよかったと、すごくそのことを思いました」。

 お母さんは奈緒ちゃんの生命力をたたえるとともに「神様が奈緒を守ってくれたのではないかと思うようになりました」と言った。
 
 伊勢監督は「生きることで自分の言葉を獲得していく。撮り続けたことでそういう気がしました。学校で習ったことや本で読んだこととは違う。実際自分が生きて奈緒ちゃんと接して、そういう中で言葉というか考えてきたんだとすごく思うんです」。
 「僕自身このシリーズを撮りながらいつも教えられているというか受けとめたことで自分が経験してゆく。(映画を)見ている人にそれがうまく伝わっていけばいいと思うんです」。

 家族に、地域に育まれ、家族を、地域を育んだ歳月・・・「いのち」を見守り続けた50年間におよぶヒューマンドキュメンタリー「大好き~奈緒ちゃんとお母さんの50年~」は2024年7月13日(土)から8月9日(金)まで東京・新宿K's Cinemaで上映される。
 また、シネマ・ジャック&ベティ(横浜)、シネマ・チュプキ・タバタ、伊勢進富座、名古屋・シネマスコーレ、静岡シネ・ギャラリー、大阪・シアターセブン、京都シネマ、神戸・元町映画館、広島・横川シネマ、山口情報芸術センターYCAM、別府ブルーバード劇場、金沢・シネモンド、富山・ほとり座、上田映劇などでも上映される予定だ。

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