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「ブラック・ジャック展」

 「手塚治虫は、絵に書いたヒューマニズムの作家でもなければ、絵に書いた戦後民主主義の作家でもなかった。もちろん、一般にいわれるような、鉄腕アトム=正義の味方といった単純な作家でもなかった。そうした面もあったが、それは部分にすぎなかった。単純に科学の進歩などを信じていた作家でもなかった。彼は、悪魔的なものに魅かれる作家だったのである」。
 これは「COMIC BOX」1989年5月号に載った高取英氏の文章だ。
 同じ雑誌にジブリ作品で知られる宮崎駿氏も文章を寄せているー「ある・・・虫プロが最初に総力を挙げてつくったというアニメーションで・・・男女二人のポスターが、空襲の中で軍靴に踏みにじられ散りぢりになりながら峨のように火の中でくるくると踊っているという映像があって、それをみた時にぼくは背筋が寒くなって嫌な感じを覚えました」。
 「意識的に終末の美を描いて、それで感動させようという手塚治虫の”神の手”を感じました」。

 


 そう、手塚治虫は単純には割り切れない。その手塚が「週刊少年チャンピオン」で「ブラック・ジャック」の連載を始めたのが1973(昭和48)年7月19日号。顔に傷がある黒ずくめの闇医者にして天才外科医ブラック・ジャックは正義の味方であるとともに、法外な治療費を請求する「ダークヒーロー」ともとれる存在だ。
 本当のところはどうなのだろうか。この漫画は現在第一線で活躍する医療従事者の多くに影響を与えたとされる。それは善と悪のどちらをも内包している人間という存在の性をあますところなく描くとともに人間だけでなく他の生き物たちの命をも尊ぶ姿勢を描いた作品だからだと思う。
 人間をはじめとする生きものの命とは何か?それを救う医療とは?、人としての生きざまは?、そして「医者というのはなんのためにあるのか?」という問いにまで至る数多くのテーマが提示されている。
 ブラック・ジャックは孤独な存在である。彼が創造した”18歳で0歳”の女の子ピノコが唯一心を許せる存在なのだろうか。「子ども大人」のピノコはブラック・ジャックに心を寄せている。そんな2人のやりとりに読者が心揺さぶられることもあろう。

「ブラック・ジャック」単行本(秋田書店)


 「手塚治虫 ブラック・ジャック展」が六本木ヒルズ東京シティビュー(東京都港区六本木6-10-1六本木ヒルズ森タワー52階)で2023年11月6日(月)まで開かれている。全日日時予約が必要である。
 過去最大規模のブラック・ジャックに関する展覧会で、500点以上の原稿などから手塚治虫の情熱と執念を解剖している。

 


〇第1章「B・J(ブラック・ジャック)とキャストたち」ー作品に登場する個性豊かなキャラクターたちの裏話や謎を作品と併せて紹介。この章のみ社写真撮影が可能である(第2章からは撮影禁止)。

ブラック・ジャック 
ピノコ 
事故でバラバラになった少年(ブラック・ジャック)を救った医師・本間丈太郎 
ブラック・ジャックの「ライバル」Dr. キリコ 
ハリ師 琵琶丸


〇第2章「B・J誕生秘話  マンガ「ブラック・ジャック」誕生時の手塚治虫の苦闘」ー手塚治虫の医大時代の資料や「ブラック・ジャック」の4話読み切り当時の原稿など手塚の前代未聞の発想の秘密を展示を通して紐解こうと試みている。単行本「新寶島」(複製)やテレビアニメ「鉄腕アトム」(1963)の画像などを観ることが出来る。また映像で、担当編集者の岡本三司氏や手塚の長男真や長女るみ子らの話を見ることも出来る。さらには、手塚が医師を志すきっかけとなったエピソードが紹介され、博士論文「異型精子細胞における膜構造の電子顕微鏡的研究」や医師免許証なども。
〇第3章「B・J曼荼羅 「ブラック・ジャック」の世界を主なテーマごとに」ーマンガ「ブラック・ジャック」原稿が並ぶ圧巻の展示空間。運命を変えた幼少期の事故から金の行方までブラック・ジャックの過去を一気見。ストーリー全体を通しての遍歴、高額請求の謎や、動物のいのちを扱った作品など主要なテーマごとに作品を展示している。
〇第4章「B・J蘇生 現代によみがえるブラック・ジャックの魅力」ー初めて見た人を驚き惹きつけた”人体の手術シーン”を現代アート的な視点から鑑賞してみる展示や第一線の医療従事者たちもリスペクトするB・Jを医療の側面から顧みている。テーマとしては「医療 アート」「医療 技術」「医療 現代性」「医療 痛み」「医療倫理」そして「医療とは」。

 現代における”業”としての医療の経済性、そして医療界や病院組織という”社会”の思惑の中での医療の在り方の問題をB・Jは切り開いていく。

 

 開館時間は午前10時から午後10時(最終入館午後9時)。
 観覧料は平日(当日券)一般2100円(2200円)、学生(高校・大学生)1600円(1700円)、子供(4歳~中学生)800円(900円)、シニア(65歳以上)1800円(2000円)。
 土日祝(当日券)はそれぞれ2300円(2500円)、1700円(1800円)、900円(1000円)、2000円(2200円)。
 いづれも4歳未満無料。
 全日日時指定制。日時指定券に空きがある場合のみ、美術館・展望台チケット/インフォメーション(六本木森タワー3階)にて当日券を販売。

六本木森タワー


 

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