守護神の堂々たる帰還 GKの喜怒哀楽④~2018年J1第31節、川崎対柏~

守護神が還ってきた。混迷を深め、残留争いに身を置く柏は第31節、脳震とうの影響で戦列を離れていた中村航輔を、約3カ月半ぶりに先発で起用。連覇へ驀進(ばくしん)する川崎を、敵地で撃破するための〝起爆剤〟を投下した。

中村は、期待に応える。前半17分、家長の鋭いミドルシュートを的確にクリア。同32分には、小林のミドルシュートを軽やかに弾き出す。共に一線級のGKにとって難易度は高くなかったが、相手に「中長距離からのシュートでは容易に破れない」とプレッシャーを与えられる、完璧な止め方だった。

しなやかで速い

中村の持ち味は、しなやかで速い身のこなしだ。185cm、82kgの数字では計り知れない身体能力を有し、抜群の反射神経も相まって、どこか猛禽類を想起させる。先ごろ引退を発表した、元日本代表・川口能活氏のスタイルとも重なる。そうしたイメージを再認識させる2度のセービングでもあった。

GKはデリケートなポジションだ。足だけでなく手でもプレーするため、試合から遠ざかると、フィールドプレイヤー以上に多くの違和感を覚える。例えば、空間の把握。実戦ならではのボールや人の速さ、空中戦における激しい競り合いなどが守備範囲に及ぼす影響を見極められず、目測やタイミングを誤ったり、消極的になったり、味方と呼吸が合わなかったりする。

事実、チョン・ソンリョンの出場停止でゴールマウスを守った川崎の新井章太は前半13分にクロスの処理で味方と被りピンチを招き、後半41分には致命的なクリアミスを犯したほか、試合を通じてセットプレーで主導権を握ろうとする積極性を欠いた。他のコンペティションで定期的に出番を得ている新井でも、いわゆる「試合勘」は万全ではない。

前半45分にオルンガのヘディングを巧みに身体を捌いて止め、後半30分には小泉の強烈なミドルシュートをストップするなど、チョン・ソンリョンを上回る機動力や俊敏性も示したが、安定感には乏しかった。

試合勘の喪失を上回る安定感

しかし、長欠明けの中村には終始、それがあった。1つひとつのプレーが丁寧で、ポジショニングも細かく修正。1失点目は速いシュートを予測して虚を突かれたように映り、2失点目は狭い側のコースを抜かれ、3失点目は知念のシュートを遠くに弾き切れず阿部に詰められたとはいえ、1失点目は届かない場所、2失点目は間に合わない速度、3失点目は止めるのが精一杯の威力で、いずれもGKの自責ではない。

GKでは若いとされる23歳で日本代表に名を連ねる傑出した才能は、怪我や恐怖を乗り越え、力強く再起動した。指揮官の手腕に疑念を拭えない柏の残留は、守護神の双肩にかかる。

<採点>
新井章太:6.5
ビッグセーブ:1
ミスセーブ:1
厳しく判定すれば、ビッグセーブは1回。オルンガの一撃を止めた場面だ。ミスも散見されたが無失点で切り抜け、キックの精度は高かった。

中村航輔:6
ビッグセーブ:1
ミスセーブ:0
知念の強烈なシュートを止めた場面がビッグセーブ。並みのGKは間に合わない。逆に家長と小林のミドルシュートは、身体が動けばタイミングを合わせやすい速度とコースだった。

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