見出し画像

〜子供返り〜 そんなことまで言っていいの!? #7 (ウサギノヴィッチ)

 その女のことは嫌いではない。その女はぼくの隣で寝ている。白い雪のような素肌で布団から少しだけ腕を晒している。その女に会いたいと思ったのは、あの女に会うことを断られたからだ。あの女は会社で仕事が忙しいと言っていた。本当は、別の男と会う予定なのだろう。あの女は男を文面通りに食い物にしている。手当たり次第と言ってはなんだが、自分の気に入った男とは誰彼構わず寝る。ベッドサイドに置いてあるその女のスマートフォンが揺れた。現代というのはスマートフォンがなければ生きにくい時代になってしまった。スマートフォン以前、携帯電話が普及したことが人間同士の寂しさを共振させて、そんな二人を無作為に繋げているようにも感じられる。寂しいから会う。今の状況もきっとその前時代的なものに引き寄せられているのかもしれない。その女とはライブハウスで初めて会った。バンドマンの友人の紹介だった。最初は、その友人を交えて交流をしていたけれども、いつの間にか二人で会うようになった。その女はお酒がダメだった。だから、美味しいと噂されるレストランに誘っていた。今日は鉄板焼で有名な店に誘った。お金持ちというわけではないけども、女性のためにお金を使うくらいなら余裕であるくらいの給料をもらっている。その女は楽しそうな顔をしながら、焼いてくれているシェフと話をしていた。純粋という言葉を体現するのであれば、その女だろうと思った。あの女も同じ行動をとるだろうが、きっと腹の中では別のことを考えているだろう。そんなことを考えてしまうのは、無礼なのはわかる。あの女は人によって態度を変える。あの女の友人に話を聞いて驚いた。あの女が複数の男と関係を持っていることを教えてくれた。一途にあの女のことを思っていた。しかし、その事実を知ると、あの女との関係を改めなければならないと思った。眠れなかった。それは現在進行形の話でありつつ、日常においてもそうだった。あの女のことが忘れられないのではないだろうか。その女に対してどこか罪の意識を背負っているのだろうか。その責任の取り方を迷っているのかもしれない。その女は結婚して安心したい年頃である。その女と話していると、友人が結婚した、子供を産んだとかそういう話を要所要所で散りばめてくる。その女のスマートフォンがまたバイブした。その女は人当たりが良いので、友人と呼べる人間が多いのかもしれない。スマートフォンのバイブがそれを証明している。あの女は逆で、友人の話をあまりしない。出てきたところでそれはモブみたいな、役割を与えられていない人形のようなものだ。自分が一番。あたしを見て。というタイプなのかもしれない。眠れないのは心配性から来ているのか。会社の袖机にノートPCを入れて鍵をかけて仕舞うが、それを忘れてしまったのではないだろうか。今、隣りで寝ているその女はあの女なのではないだろうか。だったら、今まで使い分けてきた話がだだ漏れではないだろうか。スマートフォンの相手はきっと男でその女とも関係を持っているのではないだろうか。不安な考えは連鎖を引き起こす。きっとその女にも裏がある。鬱の波がやってきて頭の中のポジティブな種を洗いざらい流してしまう。その後に残ったのは虚無だ。その女と関係を持っていることへの加害者意識だ。今からホテルを抜け出して、一人になりたい気分だ。叫びたい。酒飲みたい。自我というものを破壊したい。そうすれば心か頭の中にある悪いものを吐き出せると思っていた。その女が寝返りを打つ。それと同時に布団から少し乳房がはみ出た。それに吸い付きたいと思った。子供のときの自分に戻って嫌な現在から逃避したいと思っている。そっと乳房に顔を近づけた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?