ヘルメットの中のこと
色んなことがあった。
傷ついて苦しい思いをした。
こんなに苦しいならいっそのことやめてしまえ、そう思った。
その日から一週間連絡をやめた。やめたら好きじゃなくなると思った。
一週間ぶりに会う彼と私はライブに行く予定があった。前の晩は、私と彼と彼の友達。3人で急遽焼肉。
飲んだ後、最寄りから私の家に直帰すると友達にバレるので一回実家へ向かう。風呂も入らず実家を飛び出して私の家にまっすぐ来る。
一週間ぶりにするセックスは、ゆっくりで丁寧で。愛があったかは定かではないが、私をお豆腐みたいに崩れないように触って確かめた。
2人に朝が来て、朝日で目を覚ます。今朝も私の背中からまわる手が優しく撫でる、これが愛じゃないなら一体なんなんだろうとすら思う。
私がお化粧する横で一生懸命計画を立てる姿もまた愛おしく、今日はいい天気だからバイクで横浜まで行こうだなんて言い出す。
ライブまでの間、馬鹿みたいにくだらない話をしながら、海を見つめる。ちょっと盛れないから何回も写真を撮り直したり、やっぱりポーズを変えてみたり、キラキラした海を見つめていたら今日が終わった。
帰り道のバイク、2人で大声で歌う。
思い出の歌も、今日歌ってくれなかった歌も、今日最高だった歌も、いつも聴いてるあの歌も、誰に聞こえようが構わないワンマンライブだった。
帰路でヘルメットの中の私が気付く。
どうしてこんなに大好きなのに昨日までの私は嫌いになろうとしてたんだろう。
誰からも見えない私の目から涙が溢れる、ワンマンライブは中止。
嫌いになったとき、嫌いになればいい。大好きなうちは精一杯好きでいたらいい。その時考えりゃいいことなのに、どうして。
私の歌声が止まったとき、
「寝た?」私が首を横に振ると
「寝てていいんだからね」
と私の手を自分のポケットにしまう。
「ずっと運転させてごめん。疲れてるでしょ」
私が言うと
「俺は奈々を最後まで送る義務があるからなー大切だから」と肩を抱いた
まだ好きでいていいよね、私の中に聞いた。
今晩も強く強く抱きしめられる。“好き”と漏れた言葉に力が入っている。私の内臓は潰れちゃうんじゃないかなと心配になる。
喉が乾くほど疲れ果てた体に水を口移し。
下手くそと笑う。隣に彼がいるとわたしはすぐ眠りに落ちる。
眠りにつくかつかないかの間、脆い私を丁寧に後ろから抱きしめる彼が少し不安そうだった。
バランスの取れない2人はいつも曖昧で
消えそうに揺れる
さよならは言わないでジェニファー
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