見出し画像

きみえの読書 #15

#きみえの読書
#さよならの城 #寺山修司 #宇野亜喜良

ーーーーーーー
p136
 朝のさよならは、舌にのこった煙草の味だ。シーツの皴。モーニングコーヒーのカップに沈んだ砂糖。そして何となく名残惜しく、そのくせ少しばかりの自己嫌悪がともなう。
 昼のさよならは、笑顔でできる。またすぐ逢えるような気がする。だが、一ばんはっきりと二人をへだてるのは昼のさよならである。涙は日が沈んでからゆっくりと溢れ出る。
 夕方のさよならは、一匙のココアだ。甘ったるくそのくせ苦い。夜になったら、また二人は結び付いてしまうかもしれないので、ひどく心にもないことを言って早くわかれてしまう。夕方のさよならは、お互いの顔を見ないで、たとえば、空を見たりすることがある。
 だから夕焼けの赤さだけが二人の心に残るのである。
 夜のさよならは、愛と同じくらい重たい。人たちが皆抱きあっている時間に、「さよなら」を言うのはつらいことである。だが、そのつらさが二人をドラマチックな気分にしてくれるのである。  
 さよならの時刻表を作ろうかな、と思ってみる。あなたが今まで「さよなら」をしてきたのは一日のうちのどの時間でしたか。
 すぐ、思い出せますか?

ーーーーーーー  

この本を読んでいると、自分が37歳で既婚者で四人の子供のお母さんであるということを忘れてしまう。恋に憧れるうら若き乙女に戻ってしまうんだ。笑笑
 しかし私は恋に憧れたことがあったろうか。若いときは「恋なんて!!バカみたい」と思っていた。
 だから今こうして昔にタイムスリップしてうら若き乙女に戻り、恋に憧れる気持ちをやり直せることがなんだかしあわせだ。
 このシリーズは1966年に発行された企画本の復刻版。
 宇野亜喜良のイラストレーションはなんて素敵なんだろう!! ーーーーーー
宇野亜喜良の言葉も載っていた。
p178
 ロマンチックとか、センチメンタルとか、メランコリックという名の感情は、一般的には不健康で非建設的であるということで、専ら嘲笑だけを買っているのだけれど、ぼくは、これらの涙を含んだ感情がたまらなく好きだ。これらの感情にたっぷり浸ることは、真夜中の水浴のように爽快なのだ。
今年の夏は服を着たまま、夜のプールへ飛び込んだ。夜の水は月を染めていた。

ーーーーーー

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?