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話を急がない勇気

枝廣淳子『答えを急がない勇気』を読んでいます。


「ネガティブ・ケイパビリティが見出されるのは、記憶もなく、理解もなく、欲望もない状態のみである」。
過去のセッションがどうだったか(記憶)、理論や知識に当てはめるとどうなるか(理解)、この患者をどうしてあげたいか、自分はどうしたいか(欲望)がない状態こそ、ネガティブケイパビリティが発揮されている状態である。それができてこそ、患者をより深く理解・共感することができる。それこそが精神療法の重要なプロセスなのだ、ということでしょう。

P.57


この部分を読んでいて、私がキャリアカウンセリングの講習を受けていた頃、カウンセラーの先生からよく言われていたフィードバックを思い出しました。

講習の中では、受講者同士でカウンセラー役とクライエント(相談者)役をやって、カウンセリングのロープレを行います。

まわりでは他の受講者や先生がオブザーバーとしてロープレを観察しており、なかなかに緊張する状況です。


カウンセラー役をするときの私は、相手に対して「質問をする」ことで頭がいっぱいになっていました。

カウンセラーはいくつかの技法も使いながらクライエントと関わるわけですが、技法の1つに「質問技法」というものがあります。

すごくざっくりいうと、クライエントが自身の問題を掘り下げたり、感情に気づいたりするのをサポートするのが質問技法です。

私はクライエント役の方に寄り添うというより、「問題を解決したい」「この人が問題を解決できるようにしたい」というような思いが強いタイプでした。

そんな思いを持っていると、自分の興味のあるところについてばかり質問したり、質問というかたちをとって、自分の思う方向に話を持っていこうとしたりしてしまいます。

カウンセリングというより、コンサルティングやコーチングみたいな感じになっていたと思います。


そんなロープレをしていると、先生から決まって言われるフィードバックがありました。

「あの質問は、桑本さんが聞きたかったから聞いた質問ですよね?」

先生にはいつも、私のする質問が「桑本が聞きたかったから聞いた質問」であることを見抜かれてしまっていました。


先生いわく、カウンセリングはカウンセラーのための時間ではなく、クライエントのための時間

カウンセラーが「聞きたいこと」はどうでもよくて、クライエントがその時間の中でいかに自分自身の感情に気づいたり、向き合ったりできるかが大事、とのこと。

カウンセラーによる興味の追求や課題解決は、カウンセリングの時間の中で行うべきではありません。


ネガティブケイパビリティは最近よく聞くワードですが、カウンセリングに従事する人にも重要なスキルかと思います。

カウンセラー個人としての欲望や過去の経験、頭に入っている知識を一旦脇に置いておいて、目の前にいる相談者の話を聞き、寄り添う必要があるのだと思います。

私は、「自分が聞きたいこと」聞き、「自分がやりたいこと」やろうとしてしまうカウンセラーでした。

クライエントにとってよりよいカウンセリングを実践するためには、そういった欲望を取り払い、経験や知識も忘れて、ある意味「無」の状態で人と向き合うべきなのだろうと思います。


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