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世界は食糧危機に向かうのか?向かわないのか?とりあえず、日本政府も備えを

こんな記事が出た。

「食糧の廃棄に心を痛めている」との報道である。

「食べ物がもったいない」というのは誠に正論で、だれも反論するものはいないと思うけれど、問題はこの報道が「何故、今のタイミングなのか?」ということである。

これは、世界が食糧不足に向かう、徴候の一つなのではないだろうか?

食糧危機を示唆する兆候

中国は現在未曾有の洪水被害を受けており、長江流域の穀倉地帯の被害が予想されている。

また、アフリカ~中東~インドに被害が広がる「サバクトビバッタ」の動向についてはこれまでも注視してきたが、ブラジルやアルゼンチン等の南米でも、別の種類のバッタが繁殖して食物を食い荒らしているという報道がある。

「食物を大事に」と、今このタイミングで言い出すのは、こういった世界の穀物事情が影響しているかも知れない。

つまり、今後、世界は食糧不足の危機を迎えるという可能性を予期しての提言ということである。

国連食糧農業機関(FAO)でも、「サバクトビバッタ」の動向は注視されているし、食糧不足に対する警鐘も鳴らされている。

米以外の食糧自給率の低い日本にとって、世界的な食糧危機は大・大・大ピンチとなる。


一方で、食糧生産は過去最高に達するという見込み

一方で、2020年の食糧生産は過去最高に達するという楽観的な見込みもある。農林水産省に、海外食料需給インフォーメーションという優れたまとめのレポートがある。

以下、米国農務省穀物等需給報告書の「小麦」に関する箇所を引用する(2020年8月12日発表)。

2020 年 1 月に入り、乾燥による豪州の減産見通し、アルゼンチンの輸出税の引き上げ等から5 ドル/bu 台後半まで値を上げたものの、2019/20 年度の潤沢な供給に加え、2020/21 年度の世界的な豊作見通しから3月半ばには5ドル/bu 前後に値を下げた。3月後半にかけ、ロシアの輸出枠設定や米国の四半期在庫報告及び作付意向面積が市場予想を下回ったことから5ドル/bu 台後半に値を上げたものの、4月の低調な輸出成約高や、とうもろこし価格の下落、乾燥懸念があった欧州、黒海地域での降雨、米国農務省5月需給報告の市場予想を上回る世界、米国の期末在庫量等から、5月中旬に4ドル/bu 台後半に値を下げた。5月下旬から6月上旬にかけ、ロシアや米国の乾燥懸念や米国北部やカナダの春小麦の作付け遅れから一時5ドル/bu 台前半まで値を戻したものの、世界の潤沢な供給見通しや米国産冬小麦の収穫の進展等から6月下旬には4ドル/bu 後半まで値を下げた。7月に入り、EU、ロシアの生産量の減少見込みから値を上げ、7月末現在、5ドル/bu 台
前半で推移。

「小麦」に関しては価格が上がったり、下がったりというところであるが、需要よりも生産が上回る見通しとなっている。「トウモロコシ」や「米」についても同様である。

以上から、深刻な穀物・食糧被害を受けている地域もある一方で、米国を中心とする世界の穀倉地帯での生産は順調で、「食糧は余る」可能性が高いとの見通しだ。

ちなみに、農林水産省のこのレポートは、「食料」という観点から世界の動向を見ることができるので、とても興味深く、時々参考にしている。とても良い資料である。


食糧危機 VS 食糧余り どちらの未来がやってくる?

食糧危機を示唆する兆候は複数あり、また世界のある地域においては既に深刻な食糧危機に陥っているところがあるが、トータルで見れば生産量がそれを上回る見通しであるというのが、まとめである。

しかし、このレポートでは、中国の洪水の被害については一部言及がみられるものの、バッタの被害については全く言及がない。洪水の実態についてもまだまだ分からないところがあり、場合によっては中国が世界中から食糧を爆買いする流れも予想しうる。

そういった不確定要素もあることから、やはり日本国としては食糧安全保障のためにある程度の動きをしておくべきだろう。

日本の食料自給率はカロリーベースで40%弱とされており、米はほぼ100%とはいえそれはパン食などが可能であるという条件においてである。

「食料供給は潤沢な見通し」と言われて、価格が上がっていない今だからこそ、備蓄を増やしておくという選択肢も、政府にはぜひ検討してもらいたい。中長期的には、食料自給率を高めていく努力をすることは、言うまでもない。

そういえば、原油先物がマイナスになるという、数カ月前の原油価格急落期に、日本は備蓄量買い増しをしておくべし!という記事を書いたことがあるが、結局どうなったのだろう。最近、原油価格は持ち直してきている。


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