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Rolling Stones/Hackney Diamonds 発売日レビュー 2023年10月20日

先行曲の「アングリー」が個人的に凄く気に入ったので、久々に「新譜を楽しみに待つ」というイベントが発生し今日の日を楽しみにしていたのだが、期待通りサティスファクションなアルバムだった。

多分ストーンズ史上最も聞き易いポップでまとまりの良いアルバム・・・と言ってもいいかもしれない。昔の感覚でいうと全曲シングル向き・・・のような感じ。「3分程度のポップなシングル向けレコード」の世界がリスナーとしての基盤にある自分としては歓迎すべき要素だし、新規ファンも取り込みやすいのでは?と思う。

ロックが、ティーンエイジャーの情動を代弁するポップカルチャーとしては役不足な存在になってからもう久しく、色々と1周どころか3周ぐらい回った今だからこそ今度は「大人の嗜み」として、こういうストレートアヘッドなロックサウンドは説得力を持つ気がする。勿論元来のロックの役割とマッチする若い世代が何かを感じて興味を持つならそれに越した事はないが・・・。

そして往年のファンは多分いくつかの楽曲にダイスを転がせ、ワイルドホーセズ、無情の世界・・・辺りを見出し思わずニヤッとさせられるだろうし、多分これはストーンズ側がわざとやってるお遊びなのだろう。お約束のキースが歌うトラックも安定の味わい深さだ。ラストを飾るローリングストーンブルース・・・では彼らのディープでマニアックなルーツブルースの嗜好が炸裂している。

この曲だけモノラル録音・・・てのもさすがのコダワリだし、ロウでワイルドでキッタねえ感じがサイコーな1940~50年代のエレキ弾き語りガレージブルースのホットロッドな現代版、という感じで個人的には丁度初期のジョンリーフッカー辺りのオリジナル78回転シェラックのSPレコード蒐集にハマっている・・・というタイムリーさも相まって注目のトラックだ。同じブルースでも「玄人っぽいファンキーでスムーズなヤツ」ではない辺りに彼らの心意気を感じる。しかもそういうハードコア寄りでブルータルなのにちゃんとポップレコードから逸脱しないような感じにまとめてあるのはさすがとしか言いようがない。ダテにヒットチャートとは水と油のブルースをベースに50年以上ポップレコードの世界でシノギを削ってないな、と思わせる。

他にも60年代、彼らがまだサティスファクションで一気に羽ばたく前、常にビートルズの背中を追いかけ、デイヴクラークファイヴやハーマンズハーミッツ辺りにも水をあけられている「英ビートバンド」として、彼らなりの「抱きしめたい」を求められていた頃に苦し紛れに作っていそうなそぐわないメロディアスさが今だからこそ説得力を持つWhole wide world、残念ながらオリジナルドラマーのチャーリーワッツを近年失い、玄人な質感の新ドラマーを入れたからこそのテクニカルなファンキーさを感じさせるGet close、イントロが流れた瞬間アレ?ワイルドホーセズ…と思わせつつ普通に楽曲オリエンテッドな、凄くキャッチーでシンプルに良いポップバラードソングのDepending on you‥等あげるとキリがないが、この時点でもう買っても絶対損はない、てのがわかる事だろう。折しも芸術の秋…という事で一般教養としての「ロック」の教科書代わりに一家に一枚・・・・である。

「ロックってどんな音楽?」の答えを世界最長で最年長のロックバンドがタイムリーにも新作で答えを出してくれてますよ・・・と40年来のロックフリークである自分がロックンロールのキュレーターとして自信をもって推薦する作品である、と断言しておこう。

エルヴィスで目覚めストーンズにつき動かされモトリーで実行に移した自分にとって、3本柱の1本がここに来てここまで素晴らしい成果を出してくれたことは心の底から喜ばしい事である。

・・・・嬉しさついでにここからは、オマケでアルバムの内容とは関係ない個人的な話をしてみたい。

実は自分にとって「楽しみにするストーンズの新譜」はストーンズ歴30余年にして初めてだったりする。ストーンズを知った時最新アルバムは当時数年前に出たスティールホイールズやフラッシュポイント・・・でヴードゥーラウンジが出る頃には、エディヴァンヘイレンやジョージリンチを志す早弾きメタルキッズと化しており、バビロンやビガーバン・・・の頃は音楽家の端くれとして色々と必死で、そういう立ち位置の若者にありがちな、常に葛藤とダウナーな精神状態を抱え「音楽」は純粋に聞いて楽しむというよりは分析の対象もしくはものすごく大きな意味でいえば同業者目線・・みたいな感じだったのだ。

色々と経て年食った今は見た目も脳みそも神経も弛緩してきて、良い具合につまらんことにまで頭が回らなくなってきたし、加齢で都合の悪いことはいい感じに頭の中に入ってこない・忘れる・自分の都合の良いように変換する・・・と良いことづくめでお陰様で日々ハッピーにニコニコと幼児退行を達せられているのだが、そんなこんなで彼等の新作の話題が盛り上がってきた頃から「純粋に音楽を楽しむだけだった日々を思い出す何かをしたい」・・・と思い付き「発売日はその当時にはそれしか選択肢がなかった方法、実店舗でCDを買う」をやろう、と決め、更にどうせなら色々とディティールにもこだわって「なるべく当時から存在していた店舗で」と決め、本日セルフミッションを敢行してきた。

今住んでいるのは同じ地元でも当時とは違う所なので、あえてかつて住んでた場所までわざわざ行ってそこをスタート地点にした。本当はよりリアルに「高校の下校時に買った体」で母校をスタート地点にしようかとも思ったが、母校だろうが傍から見れば不審者が学校の周りをうろついているだけ・・でしかないので「当時の自宅コース」を選択。今となっては色々と様変わりしていたものの、それでも要所要所30年間変化ない場所もあり、いい感じで浸る事が出来、良い秋の行楽、後ろ向きアダルトの楽しい楽しい秋の遠足・・・を敢行できた。


自分が小学校の頃から写真右側がよくわからない工事現場的な感じの謎空間の坂道。当時は坂を下ると近くの寺の坊主とスキンヘッド具合が区別つかないヤクザの家だった。家の前にはフルスモークのメルセデス560SELが、事情を知らない余所者が思わず擦っちゃうんじゃないか?みたいな感じで常に路駐してあった。平成初期ぐらいまでは「暗黙の了解による路駐の予約箇所」みたいのが存在していつも同じ車が止まっていて誰もその事に疑問すら抱いてなかった事を思い出した。
ここもやはりずっと荒れ地だ。荒んだ景色は懐かしさよりも現実的で美化されない当時のリアル記憶がよみがえる。

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