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ローマでの休日。移動を制すものがローマを制す。

NYでローマ行きの便に乗り換える。4列のシートに私・娘・夫と並ぶ。私の左隣は空席かと思いきや、白人のお姉さんが座った。ロシア人だと言っていた。

隣に人がいると気を遣う。肘掛けを巡ったせめぎ合いが発生するし、子連れなので迷惑をかけないかドキドキする。搭乗が終わったらどこか他の席に移動したりしないかな、なんて思っていたけれど、機内はほぼ満席だったようで彼女は動かなかった。

飛行機が離陸し、シートベルトサインが消える。

ガコン!
私の前の席の男性が、いきなり座席をぐいっと倒した。すごく倒した。座席のモニターが私の眼前に迫るほど。少しでも体を傾けたら鼻がモニターに触れそうだった。

突然のことに呆然とする私。

これを見た隣のお姉さんも目を大きく開き、口をあんぐりと開けていた。「開いた口が塞がらない」というのはあんな顔なのだと思う。

戸惑う私をよそに、彼女はすぐさまその男性の肩をちょんちょんとつつき、振り返った彼を無言で見つめた。あの顔のまま、よりぐっと眉間に力を入れて。

彼は何かを察したのか、すぐさま座席を戻した。もしかしたら後ろは空席だと思っていたのかもしれない。確認するそぶりもなかったけど。


イタリアへ行く!と人に話すと、誰もがスリやぼったくりに気を付けるようアドバイスをくれた。

ある友人は「日本人は争いを避ける傾向にあるから、ターゲットにされやすいらしいよ。気を付けて!」と心配してくれた。「たいていの日本人はそうでも、私は争いを避けないから大丈夫〜!ははは!」と返したのだ、私は。

それが行きの飛行機で、ありえない角度で迫ってきた座席に言葉を失ってしまった。もし隣の女性がいなかったら、「どうしよう…」としばらくオドオドしたと思う。

秒で行動に移した彼女の辞書には、間違いなく「争いを避ける」という文字はなかった。結果として争いは起こってないけど。

隣の人来ちゃった、ついてないな、くらいに思ってたのに。彼女のお陰で、私に降りかかった最初の災難はものの数十秒で解決した。幸先が良いのか悪いのかわからない、イタリア旅行の始まり。



無事ローマへ着き、まずはUberでホテルへ向かう。

運転手がシートベルトをしないことに驚き、石畳の狭い道をたくさんの車とバイクがびゅんびゅんととばしていくことにも驚く。

窓から見える景色は「私、ローマに来たんだ…!」とうっとりさせてくれるものかと思いきや、ありとあらゆる壁に落書きがされていてショックだった。あの "ローマ" に住んでいるのに、落書きするの?そうなの?住むと訪れるとでは街に対する思いは別物だとはわかっていても、なんだか悲しい。

路駐する車の多さも想定外だった。道という道の脇が車で埋め尽くされている。

アメリカでも路駐の車に散々うんざりしてきた。おしゃれな街並みを写真に残そうとするものの、そこに映るのは大量の車。ヨーロッパではこんなことはあるまい、と勝手に思っていたが、そんなことはなかった。

車があっても素敵ではあるんだけど…
両サイドにぎっしり。

こんなに狭い道ばかりで止める場所もあまりないのに、車がメインの移動手段なことに驚いた。

広い道では道路の真ん中に路面電車が走っていたのだけど、その線路を車が爆走していたのも衝撃だった。車のせいで電車が遅れたりしないよだろうか。私が生まれ育った広島では路面電車がそこここを走っているが、その線路は不可侵である。対してローマの路面電車は路線があまり多くなく、車より地位が低いのかもしれない。



私達は日々の移動を甘くみていた。中心地から離れたホテルを予約した上に、個々の観光名所が絶妙に離れている。地下鉄は街の中心から遠く、観光名所へのアクセスには不便だ。ローマは地下を掘ると遺跡がわんさか出てくるのでこれ以上地下鉄が作れない、なんて話を聞いたことがある。

だから観光地へ向かう主な移動手段はバス、タクシー、徒歩の3つ。

その時私たちがいた場所から目的地のコロッセオまでは徒歩で20分以上。大人だけなら歩けば良いが、4歳児が一緒の場合は話が別だ。

ということでバスに乗ろう。来世では毎回タクシーに乗る富豪に生まれよう。だけどバスの乗り方がわからない。調べるとチケットが必要なようだが、そのチケットは地下鉄の駅かチケット取扱店でしか買えないらしい。地下鉄の駅なんて目的地より遠いし、チケット取扱店なんてどこにも見当たらない。そんなことある?途方に暮れた。

チケット取扱店には "T" と書かれた看板が掲げられているそうなので、とりあえず目的地に向かって歩きながらTを探す。トイレにも行きたくなってきた。だけど公衆トイレもコンビニもどこにもない。トイレに行きたきゃカフェに入って何か注文して借りるしかない。なんてこった…。

"T" がトイレのTなのか何なのかわからなくなってきた頃、ようやくTを掲げるお店を見つけた。売店を併設したレストランのようだった。中に入るとウェイターがテーブルへ案内してくれようとしたので、いやいやバスのチケットが欲しいんだ、と言うも伝わらない。チケット!バス!と言うと怪訝な顔でメニューを見せてくる。食べたいものを喚く奴らだと思われたようだ。バス!バァス!ブァアス!とあらゆる言い方を試した結果、ようやく相手も「バスか!」という顔になった。やっとか。

そして「バスのチケットは売り切れだよ」とすげなく言われた。ローマよ、あんまりだろ。結局20分以上歩いた。娘は序盤で電池が切れ、その娘を抱えた夫もコロッセオを目前にして力尽きた。

道の脇にあるベンチで休んでいたら、道路の反対側に観光案内所のようなものが見えた。あそこにならトイレがあるのでは?と行ってみたら、有料な上に長蛇の列だった。コロッセオにトイレがあることを祈って歩き続けた。無事にトイレはありました。さすがにあるよね。


さて、別の日に地下鉄の駅へ行って無事チケットを入手した。地下鉄とバスのチケットが兼用らしい。これで堂々とバスに乗れる。

いざ乗ると、車内にICカードリーダーみたいなものがあった。見ていると、乗客がクレジットカードをかざしてピッと音が鳴っていた。どうやらそれがチケット代わりになるらしい。

いや、クレジットカードで乗れるんかい!!



まず頭に浮かんだローマの思い出を綴ったら、図らずも飛行機・自動車・バスという移動手段エピソードになったので、ここで一区切り。


9泊10日イタリア旅(ローマ→フィレンツェ→ベネチア→ミラノ)の旅行記、ではなく旅エッセイ。旅で印象に残った出来事を綴ります。

もっと書いていく予定なので、よかったらまた読んでもらえると嬉しいです。



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