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【質素とコダワリ】

「最近、といっても、半年くらいですけど、布団から出られないんです」

『ベッド、ではなく、布団で寝てるんですか?』

「あ、あぁ、そうです。床に布団を敷いて寝ています。フローリングですが、何となく」

『そうでしたか。何だかイメージが湧かなくて』

「イメージ?」

『はい。誰かのお話を聴く時、そうですね、相手の話をしっかりと聴きたい時だけですけど、頭の中というか、情景を思い浮かべないと、難しくて。
すみません、話のコシを折ってしまって』

「いえ、いいんです。
ちなみに、話の腰を折る、って表現は、身体の一番大事な部分である腰を折ってしまうところから来てるんだそうです。気をつけたいですね。知ってましたか?」

『、、、』

「、、、イヤミ、じゃないですよ」

『あっ、はい』

「冗談ですよ。私の話を真剣に聴いてくださって、嬉しいです。続けますね」

『すみません。つい』

「目は覚めるんです。規則正しい方だと思います。例えば夜、少し夜更かししても。年中同じ時間というコトでもなくて、季節によって、変わります。明るくなったら、自然と」

『大きな窓が東にあるんですね?』

「窓?」

「陽の光が入るのかな、と思って。朝陽が」

『そうです、そうです。凄い。さっきの話ですね』

「さっき?」

『イメージの話』

「あぁ、そうですね。カーテンも閉めてないんですね」

『カーテンがあんまり好きじゃなくて』

「じゃあ、あんまり閉めないんですか?」

『閉めない、というか、ないですね』

「ない?」

『東の窓にはカーテンはないです。たまたま向こう側に、窓の向こうには、何もないんで』

「覗かれる心配もないから、ですかね」

『そうなんです。部屋を選ぶ時も、それが決め手でした。リビングの床に布団を敷いて、寝てますし、カーテンはありません。テーブルもベッドもないですね』

「質素なんですか?
それとも、こだわりですか?」

『それとも?
対比になってないような気がしますけど、質素とこだわり。共存しますよ』

「たしかに」

『質素、ですね多分。自分で言うのはまだ分かりますけど、ヒトに言われるのは初めてです。不思議な感じ』

「もしかしたら、失礼になる表現ですか?」

『おそらく。ヒトによりますね。でも私は礼儀とか、ヒト様に何か言えるようなモノでもないので、、、』

「、、、」

『こだわり、はもうナイかな』

「もう?」

『そう。もう、ナイ気がする』

「昔はあったんですね」

『ヒトからよく言われてた頃もあって。自分では意識してないコトも、周りから指摘されてましたね。コダワリ強いね、とか』

「今は、どなたかに、言われませんか?
質素だね、こだわりが凄いね、とか。
例えば、お友達が部屋に来た時とか」

『私以外、誰も入ったコトないかも』

「そうですか」

『住み始めた時には、防犯設備の方が来ましたけど、それからはナイかも』

「そうなんですね」

『友達ももう、いないかな。もともとツルむタイプでもないので。連絡先もドンドン捨ててますしね。溜まるのがイヤというか、コワイし』

「コワイ?」

『ヒトに視られてるように、感じるんです。アレから』

「、、、」

『まぁ、仕方ないです。自業自得です』

「アナタのせいじゃない」

『、、、』

「アナタの、せいじゃない」

『、、、』

「アナタも被害者です。被害者の1人です」

『そうなのかな?
よく分からなくなりますよね。加害と被害の区別が曖昧で』

「私だけは、言えるハズです。アナタは悪くない」

『そう言われても、、、
世界はあなたと私だけではないんです。むしろ、あなたと私は世界に含まれてないようにさえ、感じます。あなたはどうですか?
ねぇ、あなたはどうですか?』

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