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命は巡る

 父が亡くなってからそれほど経っていない時に、父と同じ病院で知人が出産した。わたしは母と一緒に面会へ行った。もちろん緩和ケアのような病室と、妊婦さんの病室は、フロアも部屋も異なる。

 何事もなく訪問し、お祝いを伝えた帰り、沸々と思い出していた父のことが一気に頭に浮かび、耐えきれずに泣いてしまった。

 大丈夫だと思ったけれど、いくら明るいことのためとはいえ、まだ病院に来るのには早かったんだ、と自分の心の機微に気付いた。

 それから幾分か経ち、何度か別のお別れも経験し、心は少しずつ耐性のようなものを付けていったように思う。

 そしてこの度は、自分と近しい人が出産した。まだ会いに行ってはないけれど、なんてめでたくて、奇跡で、素晴らしいことなんだろうという思いでいっぱいだ。死ぬ命もあれば、生まれる命があることを身近で感じてようやく実感した。当たり前のことのようで、母子共に健康であることは、奇跡に等しいことでもある。

 これが、命は巡るということなのかもしれない。


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