見出し画像

中国 最高知識産権法廷 2023年度報告及び成立5周年、10大影響事件と100典型事例

最高人民法院最高知識産権法廷は、2月23日、2023年度の「最高人民法院知識産権法庭年度報告(2023)」を公示、また、最高知識産権法廷が成立5周年となり、裁判所の判断基準がさらに統一され、裁判の質と効率も向上したとの総括、及び5年間の10大影響事件と100典型事例を発表した。原則、第二審が対象となる。

最高知識産権法廷の設立2019年1月1日以来5年間で技術系知的財産と独占禁止事件を8,924件受理、15,710件結審した。内訳では、特許権権利確認行政事件を3,943件受理、結審2,971件、植物新品種事件を481件受理、結審364件、営業秘密事件を437件受理、結審304件、独占禁止事件受理203件、結審146件などとなっている。また、外国の絡む事件を1,678件受理、1,198件結審し、全体の10%を占め、発明特許権利確認行政事件が約30%となっている。発明特許と営業秘密権利侵害事件での賠償は2,18億元、和解などを含む総額は6.58億元(約131億円)に達している。

過去5年間の受理と処理件数の推移

(1)2023年の処理状況
①2023年の事件数
 2022年の技術類知的財産権と独占事件の受理7,776件(前年6,183件、+25.8%)、内、新規5,062件。審決4,562件(前年3,468件、+31.5%)。裁判官一人当たりの担当件数140.4件(前年142.5件)、また処理件数82.3件(前年79.9件)で2.4件増加している。
②事件内容別内訳
 民事二審は3,222件(前年2,956件、前年比+9%)で、発明特許権侵害687件(前年615件、前年比+11.7%)、実案特許権侵害1,125件(前年968、前年比+16.2%)、特許出願権と権利帰属紛争285件(前年312件)、植物新品種権紛争168件(前年144件)、集積回路配置設計紛争2件(前年6件)、営業秘密紛争113件(前年78件、前年比+44.9%)、コンピュータソフトウェア紛争704件(前年648件)、契約紛争14件(前年96件)、独占紛争25件(前年15件)、その他の紛争は99件(前年74件)。全体的に増加している。
 行政二審1,227件(前年877件、前年比+39.9%)は不服再審で、特許出願296件(前年241件)、実案特許出願46件(前年27件)、意匠特許出願7件(前年0件)、発明特許権無効365件(前年234件、前年比+55.9%)、実案特許権無効330件(前年207件、前年比+59.4%)、意匠特許権無効139件(前年84件、前年比+65.5%)、植物新品種紛争3件(前年3件)、独占行政紛争19件(前年24件)、行政処罰などその他の行政事件72件(前年65件)を処理したが、特許無効関係が大きく伸び、有効性が一審で決着しないことが増加していることがわかる。
③審理結果
 審決4,562件(前年3,468件)での原審維持2,260件(前年2,040件)、維持率49.5%(前年58.8)、過去5年の平均原審維持率は41.6%である。なお、却下裁定は21.5%であった。民事調停が368件(前年2688件)と大きく増加している。却下再審・改審892件(前年468件)と全体の19.6%を占める。その他は51件(前年66件)。
④外国、香港澳門台湾の関与事件
 第一審の受理490件(前年457件、前年比+7.2%)で全体の9.7%を占め、外国は421件、香港澳門台湾は69件。民事246件(前年274件)、行政244件(前年183件)。Sギルが391件。なお、過去5年間に1,678件受理し、内、アメリカ31%、ドイツ、フランス、イタリアなどECで36%、日本15%、スイス6%、イギリスと韓国がそれぞれ3%を占めている。
⑤事件の全体的特徴
 ・権利侵害民事事件は5年連続増加、平均伸び率35.3%。植物新品種の紛争の増加が持続している。
 ・ 行政事件が昨年減少したが2023年は大きく増加した、特に発明特許出願不服再審が-47.3%、同無効行政不服再審-17.3%とそれぞれ減少した。
 ・ 戦略的新興産業分野の事件が244件増加し全体の31.3%(前年30.42%)と相変わらず増加傾向である。
 ・第二審での実質的な判決変更が25.7%と積極的な前審に対する監督業務が進んでいる。

 なお、過去5年間の民事再審事件の再審率19.6%、調停率37.0%と最高知識産権法廷設置前より高くなり、行政再審事件の再審率7.1%と同程度である。民行事件の差戻審理率はそれぞれ1.2%、0.15%と大きく減少し、最高知識産権法廷の積極的な活動を反映したといえる。
 一方、同時に発表された10大影響事例と100典型事例は、情報通信、人工知能などの新興科学技術分野から漢方医薬などの伝統技術分野と広く、国内外企業が関わるコア技術で高額賠償事件が増えており、事件の20%以上が外国企業が関与する発明特許、実用新案特許、植物新品種、集積回路レイアウト設計、技術秘密、コンピュータソフトウェアなどで、権利確認行政事件から権利所属、権利侵害を含む民事と刑事が関わる多様な種類の事件であり、裁判、調停、処罰など多様な諸方式が採られている。
〇10大影響事例
1.「メラミン」発明特許及び営業秘密侵害事件(2020)最高法知民終1559号、(2022)最高法知民終541号
2.「金粳818」水稲植物新品種権利侵害事件(2021)最高法知民終816号
3.「自動車ワイパー」の発明特許侵害事件(2019)最高法知民終2号
4.「漢方薬自動調剤機」の発明特許無効行政事件(2021)最高法知行終93号
5.中国初医薬品特許リンケージ事件(2022)最高法知民終905号
6.「バニリン(香蘭素)」営業秘密侵害事件(2020)最高法知民終1667号
7.「ゴム老化防止剤」営業秘密侵害事件(2022)最高法知民終816号
8.「Kabo(卡波)」営業秘密侵害事件(2019)最高法知民終562号
9.「煉瓦協会」水平独占協定事件(2020)最高法知民終1382号
10.「コードレス掃除機」発明特許侵害事件(2022)最高法知民終189号
〇100典型事例
(1) 科学技術イノベーション奨励事件 23件
(2) 保護レベル強化事件 22件
(3) 公平な競争の維持事件 24件
(4) 外国企業関与事件 18件
(5) 積極的司法実務展開事例 13件

参照サイト:
2023年度報告 https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2788.html
成立5年報告 https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2782.html
10大事件 https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2784.html
100件事件 https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2785.html

■著作権表示 Copyright (2024) Y.Aizawa 禁転載・使用、要許諾

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?