嫌なイケメン俳優が教えてくれたこと。

昔、ある俳優さんとデートをしていた。
普段から彼があまりに目立つので、街を歩くとすごい視線を浴びた。なんでもない道を歩いててもADさんがとんできて
「今、カップルでテレビに出演してくれる人を探していたんです」
と声をかけてきたりする。
「事務所に入ってるんですみません」
と、さくっと断る彼に驚いて
「こういうことってよくあるの?」
と、あとで聞いたら
「そうだね」
とあっさり。
恵まれた身長と顔面偏差値。それはどれだけ帽子や眼鏡で隠しても隠しきれない素材だった。私はその横で「…なんかすいません…」と思いながら歩いていた。

すると、あるとき彼がこう言った。
「きみは自分のことをきれいじゃないと思ってるの?」
「思ってるよ。だって私、一般人だもん」
「でもきみはアートとかファッションの世界でそれを生み出す立場なんでしょう。自分の中に美を見出せない人が、他の人の美を引き出せるとは思わないよ。そういう仕事をするなら、自分の美しさを自覚してないと意味ないね」

彼はけっこういやな奴だったけど、この言葉だけはいまだに鮮明に覚えている。すごく説得力があった。そして彼が街の中で目立っていたのももしかしたら、見た目の問題だけじゃなかったのかもしれない。それは自惚れとか自己演出とかそんなんじゃなくて、もっと精神的なこと。自己評価の正しい置き場、自分のつくりかた、人生の操作のしかた、楽しみかた、そういうようなこと。それを体現した存在はきっと群衆のなかで突出する。

彼とはあまりいい思い出がない。でもこの言葉をもらうために私は彼と出会ったんだと思っている。

今でも無意識に卑屈になったり、保守的に陥ってしまうとき、私はウィンドーに映る自分を見てこう問いかける。
「私は自分をきれいじゃないと思ってる?」
それだけで背筋が伸びる気がする。

私は美しいことや興味深いことを提案する立場だ。自分自身さえ面白がれないようでは、仕事にならない。だからいつもわくわくできるように、楽しく自分を磨いていきたいと思う。
「いや、自分をそれなりに気に入ってる」
っていつでも言えるように。

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かたじけない
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切島カイリ

ライター、編集/フリーランス/東京在住/セントラル・セント・マーチンズ卒/ファッション業界をうろつく猫。twitter: @KirishimaKylie 安心は好きだけれど、退屈は嫌いなの。©Kylie Kirishima. All Rights Reserved.

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