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『よく分からない』 宗教への遠慮で踏み込めなかった私たち

安倍晋三あべしんぞう元首相が銃撃された事件から、1週間もたたない頃でしょうか。

ツイッターで「フランスではカルトの定義ていぎとして10の基準を定め、カルトをまっている」という趣旨しゅしのツイートを目にしました。

ちょうど事件の重要な背景事情として、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の存在がクローズアップされ、宗教の問題をめぐる議論のうずが大きくなり始めていた時期です。

私はこのツイートを見て、ふと2018年にオウム真理教しんりきょうの幹部らの死刑が執行しっこうされた時に感じた疑問を思い出しました。

地下鉄サリン事件の当日、刺激臭しげきしゅうで倒れた人たちを収容するため設けた救護所
=1995年3月20日、東京・地下鉄日比谷線築地駅前

オウム真理教による一連の事件が発生した当時、小学校入学前だった私に事件の記憶はありません。

ただ、2018年の死刑執行をきっかけに裁判記録や関連書籍を読み、「教団の問題点はずいぶん前からあきらかだったように見えるのに、なぜ防げなかったんだろう」と不思議に感じたことは良く覚えています。

それから4年。オウム真理教の時に感じたのと同じ疑問が、またふつふつと心の中にわき上がってきました。

■ 自己紹介

こんにちは。大阪社会部の記者の水谷茜みずたにあかねです。

いつもは主に大学担当として、研究者の方々に最新の研究成果などを取材して記事を書く仕事をしています。

安倍元首相の銃撃事件の後は、冒頭ぼうとうで紹介した自身の疑問に対する答えを探すため、宗教やカルトの問題に詳しい北海道大の桜井義秀さくらいよしひで教授と東大の伊達聖伸だてきよのぶ教授に取材しました。

お二人の著書ちょしょ訳書やくしょを読み、長時間にわたるインタビューをさせていただき、日本とは異なる宗教観しゅうきょうかんを持つフランスやアメリカが、どのようにカルト問題と向き合って来たのかをまとめた記事がコチラです↓

今回の note では、取材で見えてきた課題や、私自身が感じたことをお話したいと思います。

■ カルト対策の課題、自身にも

取材を始める前は、宗教に対する自分自身の意識の曖昧あいまいさが原稿を書く上で障害になると思っていました。

私にとって「宗教を信じること」「信者になること」は身近ではなく、立ち入りづらいと考えていたためです。宗教を信じ、何もかもをささげようと考えている人たちに外野から何か言えることがあるのか、分かりませんでした。

しかし、お二人にお話を伺う中で、まさに私と同じような考え方が過去のさまざまな問題を放置することにつながっていたのだと感じるようになりました。この日本人が持つ「宗教には立ち入りづらい」という感覚について、記事の中では以下のように取り上げました。

桜井教授は、日本人が宗教批判をタブー視する傾向にあることがカルト対策を考える上で壁になっている、と指摘する。欧米では生活の中に宗教が身近にあり、「正統な宗教」を明確に捉えることができるのに対し、日本人の多くは冠婚葬祭などで仏教や神道、キリスト教などの習慣に従うだけで、「日本では宗教に対する心構えなど家庭でも学校でも教えられておらず、宗教が『敬して遠ざけられる』一方である」

日本との比較において特に印象的いんしょうてきだったのはフランスです。フランスでは宗教の問題を考える際に信者しんじゃ個人が本当に自ら考えているのかどうかを重視じゅうししていました。「自分の意志で自由に考える」というのは、当たり前のことのようですが、実は難しい。

つらいことがあったとき、自分の居場所いばしょは今いる場所だけだと思い込んだとき、肉体的・精神的に追い込まれたとき―。

さまざまな状況で、私たちは他人の考えを無批判むひはんに受け入れたり、すがったりしてしまう。そういう時に、宗教のもとに人の心の弱さにうまくつけこみ、取り込もうとする団体がいくつもありました。


■ 考えるきっかけに

記事の中ではこうした団体が引き起こした複数の事例を紹介しました。そこには明らかに傷ついている人々がいましたし、少なくとも民事訴訟みんじそしょうでは法律上の問題がいくつも指摘されていました。

「よく分からないけれど、大事にしているもののようだから」という宗教への遠慮で、私たちは多くの問題を見て見ぬふりしてきたのではないでしょうか。

安倍元首相の銃撃事件から4か月近くがたちました。

旧統一教会と長年たたかってきた弁護士や支援者、宗教2世の方々を中心に、教団きょうだんへの厳しい対処を求める動きがうねりとなり、どんどん大きくなっています。元信者や2世の方々の切実せつじつな声を聞かない日はありません。そしてその声は、私がこれまで耳をかたむけて来なかったものなのだと、気付かされました。

記者会見する「宗教2世」の小川さゆりさん(仮名)

脱会支援を続けてきた牧師や宗教2世の方を取り上げた記事はコチラ↓

当初は対応の方向性をはっきりさせなかった岸田文雄きしだふみお首相も、教団の調査に乗り出すと表明しました。私が記事を書いた8月には想像もできなかった進展を見せています。

記事を書いたきっかけがあの事件であるにもかかわらず、私が書いた記事の中では旧統一教会がカルトであるかいなかは明記しませんでした。一般に「カルトだ」と思われている団体でも、問題とされる具体的な行為はそれぞれ異なり、定義することは簡単ではないなと感じました。

参考にした文献ぶんけんでも「カルトとは」という説明に多くのページをいていました。正直なところ、今回の取材では「カルト」についても「旧統一教会」に対しても、取材が十分及ばなかった部分があります。旧統一教会がカルトに当たるのか否か、自信を持って書くことはできませんでした。

この間、共同通信が配信した他の記事を見ても「○○氏は『旧統一教会のようなカルトが~』と発言した」という間接的な記述はあっても、社の認識として教団がカルトであると断言だんげんしたものはありません。

ただ政府も統一教会の調査に動き出した今、私は改めて「カルトとは何か、日本ではどういった基準を作り、どのような対策が可能なのか」を考えるべきだと感じています。

今回の記事を読んだ皆さんにも、同じように関心を寄せていただければと思います。

水谷 茜(みずたに・あかね) 1989年、横浜市生まれ。2015年入社。福岡支社、鹿児島支局、本社科学部を経て大阪社会部。大学院で地質学を研究していたこともあり、現在は大学担当としておもに研究者の取材を担っています。趣味は編み物と読書。最近仕上げたのは、茜染めの毛糸で編んだレースショール。

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