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山本理顕さんが万博批判を続ける理由 なぜ建築家は「説明を尽くす」ことが大切なのか

こんにちは。大阪社会部の木村直登きむら・なおとです。

3月5日に公開した「2億円トイレ」の原稿に続き、今回の記事は「建築家に聞く大阪・関西万博」シリーズ第2弾としてお送りします。

「建築界のノーベル賞」
と呼ばれ、優れた建築家に送られる米国のプリツカー賞で、今年の受賞者に山本理顕やまもと・りけんさん(78)が選ばれました。日本人では安藤忠雄あんどう・ただおさんや坂茂ばん・しげるさんに続き、9人目です。

山本さんは2025年4月に開幕する大阪・関西万博について、昨年から自身のSNSや専門誌で批判的な意見を発信してきました。例えばこちらです。

メッセージを送っている相手は、万博の会場デザインプロデューサーを務める藤本壮介ふじもと・そうすけ氏です。

なぜ、このような発信を続けているのでしょうか。3月12日、山本さんに横浜市の事務所でインタビューする機会を得ました。


将来有望な建築家を見捨てない

ここからは加盟社向けに配信した記事を再構成する形で、山本さんの思いを一問一答形式でご紹介します。インタビューは、今回の万博の象徴とされる巨大な木造環状屋根「リング」から始まりました。

取材に応じる山本理顕さん=2024年3月、横浜市

―2025年大阪・関西万博について、山本さんの発信が続いています。「リング」の整備に350億円かかるという話題が国会で取り上げられた頃からでした。

リングは大量の木材を使いますが、どこから調達するのかなと。木材を使う場合、調達先の森の再生を助けることが大切です。しかし、どこから木材を持ってくるのか、調達先に迷惑がかかっていないのか、説明がありません。費用が上振れする中で、リングや会場計画も既に大混乱に巻き込まれていました。

木造巨大屋根「リング」のイメージ(日本国際博覧会協会提供)

リングの設計者は、会場デザインプロデューサーの藤本さんです。藤本さんはご自身のX(旧ツイッター)で「工事は順調に進んでいる」と投稿していましたが、個人的な感想を述べるのではなく、記者会見をしたり、報告書を提出したりして、説明責任を果たす必要があるのではないですかと問いかけたのが最初です。

―なぜ発信しようと思ったのでしょうか。

藤本さんはずっと年下だし、将来有望な建築家です。ここできちんとしないと、彼の未来がなくなってしまいます。他にも伊東豊雄いとう・とよおさんや若手の建築家がいます。藤本さんが説明をしないと、万博に参加している建築家がいかにも悪者に見えてしまいませんか?

会場デザインプロデューサーの藤本壮介氏=2022年7月

「2億円トイレ」が批判されていましたが、新しい未来のモデルになる理想的なトイレを博覧会で造るというのは重要です。そういうのは否定しませんが、説明しないといけません。

―何が問題なのでしょうか。

例えば、1970年大阪万博では「大屋根」を造った丹下健三たんげ・けんぞうさんが、なぜ大屋根を造るのか、未来の都市にとってどのような意味があるのかを説明しました。

建築家の丹下健三氏

当時も抗議はかなりありましたが、丹下さんはそれを説得し、納得させることだけのことをしていました。今回の万博には安藤忠雄さんを始め、何人もの著名人がシニアアドバイザーになっていて、プロデューサーも何人もいます。誰が責任者なのか分からない万博になっています。

藤本さん1人が責任を背負っているようにも見えます。日本建築家協会も誰も助けようとしていない。見捨ててはいけません。彼がやれるだけのことをやって、とにかく万博を成功させないといけません。

万博開催の約束は果たすべきだ

大阪・関西万博の構想については、どこに懸念があるのでしょうか。山本さんが指摘したのは、カジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)との関係でした。

―万博会場のある夢洲ゆめしまでは、IR計画も進んでいます。

私は万博を開催する場所が間違っていると思います。IRとセットで、というのはどうなのでしょうか。賭博場は生活圏から切り離されている方が良い。ラスベガスがあるのは砂漠の真ん中です。一方で、万博は後利用を含めて住民の役に立つように開催するのが理念です。性格の異なる2つのものを、同じ場所に造る。全く考えにくい計画です。万博に合わせて延伸される地下鉄は、IRに行くための地下鉄になります。万博を起爆剤にしてIRがうまくいくようインフラを整えています

取材に答える山本さん

―建築専門誌では大阪市のメインストリート・御堂筋を万博会場とする案を示しました。

道幅が広く、インフラも整っています。仮設材を使えば安価にできます。何が言いたいかと言えば、夢洲以外にもいろんな選択肢があるということ。その可能性を捨てないでほしいと伝えたかったんです。

―万博開催には懐疑的な意見が多いです。

国際的な約束で2025年4月13日の開催日を決めて、万博に参加する世界中の人がそこを目がけて準備を進めています。1カ月延期するだけでも大変でしょう。ましてや、やめるのは難しい。約束は果たすべきだと思います。万博は非常に重要な意義を持っています

―能登半島地震との関係はどう考えますか。

万博の開催が、むしろ復興の応援になるような方法もあります。例えば、生活する場所を失った被災者が名産品を販売しながら、暮らしを立てられるような街を万博会場に造れないか。大阪は人を喜ばせる天才が集まっているような土地なので、能登の人も外国の人も、おもてなししてくれるんじゃないでしょうか。今からでも十分に検討できます。

プライドを持って

最後に山本さんは、これからの建築界を担う若手にエールを送りました。

―今回の万博は政治的文脈で語られることも多いです。

国家プロジェクトは常に政治的局面で決まります。公共建築にも必ずそういう力が働きます。費用や利潤が膨大ですから。建築家はその中で設計しないといけません。

ただ、建築家に政治力は必要ありません。きちんとした建築を提案すれば、周りの住民や関わる人が必ず味方になってくれます。

重要なのは、コンペに勝った後です。コンペで当選させるのは審査員なので、必ずしも市民や住民の意見は反映していないかもしれない。選ばれた後にきちんと説明することが建築家の重要な役割なのです。その時に政治家は誰も助けてくれません。

―万博には若手建築家も多く参加します。

万博のプロジェクトに参加できるということは非常に栄誉なことです。選ばれたことにプライドを持ってやってほしいですね。みんな優れた若手建築家で、「自分が造る建築は絶対に良い建築なんだ」という自信があるはず。選ばれた責任をきちんと果たしてほしい。非常に期待しています。

夢洲でやるからといって、結果的に悪い建築になるわけではありません。僕は反対しますが、それを乗り越えて素晴らしい建築を実現してほしいです。


山本さんはリング設計者の藤本壮介氏に対し、建築家として説明責任を果たすよう再三にわたって求めていました。

会場のデザインを任された立場として、建築家の先輩である山本さんからの問いにどのように答えるのか、藤本氏に直接聞いてみたいと思っています。インタビュー実現のあかつきには、加盟社の紙面とともに、noteでも内容をお届けできたらと考えています。

※若手建築家に取材した第1弾の記事はこちらです

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