SNSで広がった〝救助要請〟記者が訪ねてみたら
こんにちは。大阪社会部の野澤です。2024年の幕開け早々、非常な大きな災害が起きてしまいました。能登半島地震で犠牲になった方々にご冥福をお祈りするとともに、避難所などで先の見えない生活を続けている方々に心よりお見舞い申し上げます。
さまざまなメディアが連日被災地の状況を報道しています。私も地震発生翌日の1月2日から約1週間、現地に入っていました。今回は、被災地を巡るデマ、誤情報について取材した記事の内幕を紹介したいと思います。
「挟まって動けない」「助けて」
1月1日午後4時すぎ、私は兵庫県内の自宅で、テレビのニュースにくぎ付けになっていました。石川県珠洲市に設置されたカメラの映像には、地震の揺れで一部の住宅が土煙を上げて崩れる様子がはっきりと捉えられていました。大きな被害が出ていることは明らかでした。
さらに情報を収集しようとスマートフォンを手に取り開いたのはX(旧Twitter)です。現地の被害状況がニュースより早く、リアルタイムで投稿されていると考えました。
やはり、被害に関する投稿が数多く上がっていました。中でも目を引いたのは、『挟まっていて動けない』『助けて』といった〝救助要請〟の投稿です。
住所や実名を明記した内容もありました。こうした投稿がリポストや転載という形で瞬く間に拡散していたのです。
私も力になりたいという思いがこみ上げましたが、別の可能性も頭をよぎり、手を止めました。
「これらは全て本物のSOSなのだろうか?」
実際に訪ねてみると
共同通信は金沢市に支局がありますが、私の所属する大阪社会部からも応援を出すことになりました。地震翌日の2日、私は水や食料、防寒具、ヘルメットなどをそろえ被災地に向けて出発。大阪から金沢に向かう特急は運休していたため、敦賀、福井と電車を乗り継ぎ6時間ほどかけて石川県に入りました。
車に乗り換えて、能登半島を北上するにつれ、損壊や倒壊した家屋を目にする機会が増えていきました。道路も寸断されていたり、隆起したりしている箇所ばかり。想像していたよりはるかに深刻な被害状況です。
私はこの日、ある場所を目指していました。
地震発生直後、SNS上で「息子が挟まれている」と救助を求めていた住所です。
詳しい場所は明かしませんが、その住所にはたしかに一軒の住宅がありました。周囲にも住宅が建ち並んでいますが、一見して損壊など明らかな被害は見当たりません。
住宅の呼び鈴を鳴らすと、住人の女性が戸惑いつつも出て来て対応してくれました。
「Xでこの家の方から救助を求める投稿があり伺ったのですが…」
私の話を聞いた女性は苦笑い。
「それデマですよ。誰かがうちの住所を勝手にネットに上げたんです」
警察からも電話
女性によると、地震発生当時、家には誰もいませんでした。当然、そこに〝息子〟はいません。
投稿には住人の氏名まで記載されていました。
「うちにこんな名前の人はいないし、近隣でもこの名前を聞いた事がないです」
女性はきっぱりと否定。知人から安否を心配する連絡があったことで、誤情報の拡散を知ったそうです。さらに、警察からも無事を確認する連絡が来たといいます。
「大変な災害のさなかに、警察の業務も妨害している」
女性はデマに憤っていました。そして、ネット上に自宅の住所が公開され続けていることに大きな不安を感じていました。
取材した内容は以下の記事で配信されています。
善意が利用されている
もちろん、投稿された救助要請がすべてウソだと言いたいわけではありません。SNSでの発信をきっかけに命を救われたという方もいるのかもしれません。
しかし、一部のデマによって本物のSOSが埋もれてしまう可能性もあります。SNSで注目されたいのか。はたまた現場を混乱させたいのか。投稿者の真意ははっきりとしませんが、非常事態に乗じて、悪質な虚偽情報を発信することは決して許される行為ではありません。
その後も、携帯基地局の修理を請け負った電気通信会社の車両に対し「火事場泥棒が乗っている」とネットで拡散されるなど誤情報が後を絶ちません。
投稿を拡散してしまった人の中には、純粋な善意や人助け、注意喚起をしたいという人もいたのではないでしょうか。残念ながら、そういった思いが利用されてしまっています。
岸田文雄首相は4日の記者会見で、「悪質な虚偽情報は決して許されず、厳に慎んでもらう必要がある」と強調しました。
今回の取材で、虚偽情報に翻弄されている方を実際に被災地で目の当たりにしました。地震そのものの被害に加え、デマによるストレス、不安が被災者に重くのしかかっています。
私たちにできることは拡散する前に、一息ついて、どんなアカウントが発信している情報なのか、真偽を見定めることなのだと思います。
地震に関するデマについてはこちらの記事もぜひご覧ください。(会員限定です)